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その159 愛し合う時
まあ、そのうち山路は、クスリ使用か更に悪いことで逮捕されるかもしれない。 自分から罪に落ちて行くタイプで、関わりたくない相手だった。
とりとめなく色んなことを考えているうちに、背後で衣擦れの音がした。 振り向くと、白いガウンをまとった加藤がドアに寄りかかって、微笑していた。
「じゃ、交代」
藍音も面映そうな笑顔を返し、そそくさと浴室に向かった。
備え付けのボディシャンプーは海の色で、爽やかないい香りがした。 好みだ。 幸先がいい。
それでもさっきより心臓の鼓動は増した。 足元が突っかかりそうになりながら部屋に戻ると、さっきの藍音と同じように加藤が窓の前に立ち、外を眺めていた。
「晶」
そっと呼びかけた藍音は、ほぼ一瞬で近づいてきて引き寄せた加藤の胸に、すっぽり収まった。
誰かに触れられるというのは、不思議な感覚だった。
手のひらが肌に接するたびに、そこが熱を帯びてほてるのも。
愛し合うことは、生まれたての状態に戻るのに似ているかもしれない。 共にもつれあっているとき、頭はまとまらず、不思議な温かさの海を漂う。
それでいて、少しの違和感と、瞬時の痛みを乗り越えれば、今度は大人になったという誇らしさがあった。
手を握り合わせたまま横たわると、汗ばんだ肩に冷房が心地よかった。
耳たぶを軽く唇でくわえて、加藤が篭もった声で囁いた。
「指輪、早く買いに行こうな」
藍音は嬉しくなった。 これまでも三回ほど待ち合わせたのだが、なぜかその日に限ってどちらかに用事ができて、会えなかったのだ。
縁起が悪いと思うのが嫌で、気にしないようにしていたけれど、やはり中途半端な感じだった。 両方の家族が認め、祝福された婚約なのだから、証しがほしい。
「行こう行こう! ね、事務所に嵌めてっていい?」
ベッドのスプリングを利用して身軽に体を跳ね上げて座ると、加藤は藍音を引き上げて力いっぱい抱きしめた。
「いいよ〜、みんなに見せびらかしてくれ〜」
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