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その157 微妙なずれ
晶は不安だったのだと、藍音は気付いた。
式を急がない藍音の心が読めなくて、気持ちが離れかけているのかと思ったらしい。
そんなわけないのに。
まだ加藤に話していなかったが、原因は別にあった。 藍音の両親だ。
父(養父というべきか)の敦彦がこっちへ転勤になってから、母はよく連絡を取るようになった。 引越しの片付けを手伝ったり、電話を受けて長話したりしている。 一度手料理を持っていったら喜ばれて、今ではいろんな料理をアイスボックス一杯に作り、週末に父が受け取りに来るのを待っていた。
藍音も週末を楽しみにしていた。 父は、遠い記憶の中にあるお父さんに戻っていて、気取らず話が面白く、ちょっとドジで、酒が入るとすぐ眠くなった。
ようやく家族がそろった──クッションに頭を載せてソファーに横たわり、うたた寝している父の胸元に、トビーが真似して丸まって、いびきまでときどき重なるのを見ると、胸がじんとなってそう実感する。
母も同じ気持ちらしく、皿を食洗機に入れて戻ってくると、立ったまま一人と一匹の『男連中』を愛しそうに見守ることが、よくあった。
それでも、じっくり探した新居に移ったばかりだから、母はしばらくは他所に行きたくないらしい。
そして父のほうは、藍音の名義になっているマンションに住むのは抵抗があるようだった。
更に今のところ、二人にはまだぎこちなさが残っていた。 人は意外に思うだろうが、夫婦をしっかりつないでいるのは、藍音だった。 不和の原因になった娘が、現在では両方の掛け橋になっていた。
直接言いにくい小さな不満や願いを、父と母は藍音に洩らす。 たまには、面と向かって言うのが照れくさい誉め言葉も。 それを藍音は角のない話し方で双方に伝えるのがうまかった。
もう少しだけ親子していたい。
その気持ちを、婚約者に伝えなかったのは間違いだったと、藍音は悟った。 取り戻した家庭の幸せにひたっていて、愛する人を蚊帳の外にしておくのはよくない。
彼を失ったら、元も子もない!
だから電車で初めての口論になった日、藍音は彼に包み隠しのない気持ちを語った。
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