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その156 心の繋がり
それからは、結婚前の一番楽しいときが始まった。
忙しい仕事の合間を縫って、二人はたびたび会った。 待ち合わせて、夕食を一緒にすることが多かったが、休みが合うと、定番のデートスポットに足を伸ばすこともあった。
真面目な性格の二人は、相手の好みや考え方、行動の癖などを、会話を通じて少しずつ学んでいった。 だから、たまに意見がずれることがあっても、喧嘩になることはまずなく、どちらかが譲るか、話し合いで条件を決めた。
だからその日、まばらに空いた電車の中で、結婚式の時期について言い争いになったのは、珍しい出来事だった。
「来年の春〜?」
額に皺を寄せて、加藤は今にも口を尖らせかねない表情をした。
「そんな先? どうして!」
「ああ……あの、秋に残りの試験を受けるって話したでしょう?」
「うん、聞いたよ。 でもそれなら冬でもいいじゃない?」
「準備が、いろいろ大変じゃないかと思うんだ」
座席に座りなおして藍音のほうを向くと、加藤は固い声で言った。
「なんだか早く式挙げたくないって感じに聞こえる」
「そんな!」
思いもよらない彼の決め付けに、藍音はびっくりした。
「そんなわけないじゃない。 私から晶のとこに行ったんだよ。 晶ったらずっと放ったらかしにしてたくせに」
「えっ?」
加藤は明らかに驚いた。
「あ、あれっ? 偶然の出会いじゃなかった?」
しまった!
口をすべらせたのに気付いて、藍音はやたら早口になった。
「それはどうでもいいでしょ。 会いたかったのは事実だけど、どこに住んでるか知らなかったし、ただふらっと出かけちゃっただけなんだから」
「なーんだ」
加藤の顔に、ゆっくりと幸せそうな微笑が広がった。
「そうだったんだ。 じゃ偶然は半分だけか。 ものすごく集中して願うと叶うって友達が話してたから、おれずっと願ってたんだよな」
見つめ合う二人の間に、不思議な空気が流れた。 やっとすべてが収まるところに収まって、未来が手の届く位置に来たという、心が洗われるような感覚が、二人を包んだ。
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