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 その155 障害は消え




 予想に反して、その夜、恋人たちはそれぞれの家で、ぐっすりと眠った。
 おそらく不安と哀しみが消え、久しぶりに心が穏やかになったからだろう。


 翌日、金曜日の正午二十分過ぎに、加藤から電話がかかってきた。
 約束通りだ。 周りが食事に出た後も、一人で残って待っていた藍音は、呼び出し音が鳴ってすぐ、携帯を手に取った。
「晶?」
「今いい?」
「大丈夫。 何でも話して」
「今日、署に報告した」
 藍音の胸が震えた。 行動力のある加藤は、交際許可を取るのに無駄な時間を取らなかったのだ。
「なんて言われた?」
 小さく苦笑する声が聞こえた。
「本当にずっと付き合っていけるのかって訊かれた」
「ああ…… なんか失礼だな、その言い方」
「おれの嘘を信じてるから。 まだ詐欺みたいなもんだと思ってるんだろう」
「そんな〜。 でも、付き合っちゃだめだとは言われなかったよね?」
「言われなかった」
「やった〜!」
 藍音は、かけている最中なのを忘れて、携帯ごと両腕を高く突き上げた。


 これで、最後の障害が消えた。
 すぐ加藤に会って、お祝いをしたかったが、彼は捜査の中核になっていて手が離せず、藍音のほうも土曜日が休日出勤になっていた。
「できるだけ早く会いたいけど、順調に日曜休みってわけにいかないみたいね」
「駄目そうだ。 この仕事だと、これがなぁ、ちょっときつい」
「前に十日くらい消えたこと、あったじゃない? 初めて口きいてすぐに」
「そう、あの時も辛かった」
「私も」
 藍音は、しんみりと白状した。
「いろんなこと、くよくよしちゃった。 晶の仕事、まだ知らなかったから、私が何かして嫌われちゃったかなーとか」
「ごめん」
 加藤の声が真剣になった。
「これからも不規則になると思うけど、もう心配させないようにするから」
「しない。 っていうか、信じてる」
「できるだけ連絡取るよ」
「そうしてね。 一言でもいいから、声聞きたい」
「話うまくないけどな」
「口がうますぎる男の人って、信用できない」
「そうだよな〜」
 加藤は元気倍増したようだった。









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