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 その154 最後に報告




 加藤が藍音に送られてマンションから出てきたとき、時刻はもう真夜中を回っていた。
 二人はマンションのエントランスで、短く立ち話をした。
「明日電話する」
「わかった」
「何時ごろがいい?」
「そうね、昼休みがいいかな」
「できるだけその時間にするよ」
「忙しい?」
「新しい事件を担当してるから。 今日も呼び出しがないか、さっきからはらはらしてたんだ」
「今夜はなくてよかった」
「その通り」
 二人は軽く肩をぶつけ合わせ、それから抱き合ってキスした。
「おやすみ〜」
「眠れるかな。 なんか興奮しちゃって」
「おれも。 戻ったら祝い酒だ。 親父が起きてたら一緒に」
 もう一度唇を合わせて、加藤は車に乗り込んだ。 窓から振られる手に振り返しながら、藍音は心の底から思った。
 思い切って会いに行って、本当によかった!




 その夜、藍音は幸せに包まれてベッドに入った。
 娘が恋人を送りに出た間に、母は実家にいる父に電話していて、藍音が部屋に戻ると、立って携帯を持ったまま手招きした。
「来て。 お父さんが声聞きたいって」
 藍音は小走りに行き、電話を受け取った。
「お父さん?」
「婚約したのか?」
「そう」
「早いなあ。 まだ二十二だろう?」
 なんとなく残念そうな口調だった。 父にはまだ子供に見えるのだろうと、藍音は思った。
「警察関係者だって? もうちょっと時間を置いたほうがいいんじゃないか?」
 父は懐疑的だった。
「どん底のときに優しくされると、好きになったと思い込むことがある。 ほら、重病患者が医者や看護師に惚れたりするだろ?」
「ちがうの」
 藍音は父の勘違いを解こうと懸命になった。
「事件の前から知ってたの。 デートしようって話になってた」
 父は唖然として、言葉を失った。


 しばらく話した後、父もようやく納得してくれた。
 父は何よりも、相手の男が金目当てでないという点に胸を撫でおろしていた。
「最近は自尊心失くしちゃって、逆玉だ〜なんて喜ぶヤツが増えたからな」
「彼はそんな人じゃない」
 そうだったら、こんなに長く私を放っておいたはずがないもの──そのせいで、ほんとに寂しくてたまらなかったんだから、と、藍音は心の中で呟いた。










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