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 その153 未来へ向け




 藍音の母が自分に悪感情を持っていないとわかった上で、加藤は求婚について話し出したが、彼には珍しく、額に汗がにじんでしどろもどろという有様になった。
「あの、今日久しぶりで藍音さんに会いまして、それでやっぱり……その、再認識したというか、これからずっと仲良く生きていきたいと……つまり」
 声が裏返りそうになって、彼はいったん口をつぐんだ。
 寿美は椅子に座り、両手を膝に置いたまま、静かにしていた。 変にせかしたりするとまずいと感じて、動かないようにしたらしかった。
 加藤は何とか言い回しを選ぼうとしたが思いつかず、頭に浮かんだ願いをそのまま声にした。
「藍音さんと一緒にならせてください!」


 寿美の肩から、ふっと力が抜けた。
 予想外の言葉が、口をついて出た。
「こんなに寂しいものなのね」
 びっくりした藍音が顔を上げると、母の眼差しがじっと娘の輪郭をたどっていた。
「いつか藍音がいい人を見つけて出ていくって、頭ではわかっていたし、覚悟もしていたつもりだけど、今、胸にずきっと来ちゃって」
 そう呟いてから、今度は大げさに胸に手を当てて、椅子の背もたれにのめりこんでみせた。
「ショックです。 でも同じくらい嬉しくて、どきどきしてます。 よかったね〜藍音。 あんた本当に人を好きになったの初めてでしょう? それで願いが叶うなんて」


 加藤のほうも、大きな関門を乗り越えて肩が軽くなり、まともに頭が動くようになった。
 それから一時間ほど、なれそめからこれまでの経過を、二人は寿美に語った。
 感心したり、涙ぐんだりして話をじっくり聞いた後、寿美は今後のことについて娘と恋人に尋ねた。
「で、これからはどうするつもり? まだ婚約したばかりだから、先の先までは考えられないでしょうけど、当面は」
「上司に報告して許可を貰います。 これは大丈夫です。 許されないはずがないです」
 警察内部からは、さぞ複雑な反応が返ってくるだろう。
 いろいろな波紋を予測して、藍音はちょっとひやっとした。
 加藤は唇をしっかり結び、淡々とした口調になった。
「それから二人で住むところを探します。 ある程度貯金がありますし、ローンも組めるので」
 彼は暗に、自分の金で家を買うと強調していた。











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