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その149 めでたい夜
藍音の胸が、喜びと愛しさで震えた。
車の中で彼女が突発的にした告白を、加藤は改めて申し込むことによって同じ立場に保ち、正式なものにしてくれたのだ。
おれだって愛してる、いや、おれこそ君よりもっと前から好きだった。
彼の熱っぽい瞳は、言葉以上に雄弁に語っていた。
カップを置いて、藍音は加藤の手を求め、固く握り返した。
「はい。 お世話になります」
「こちらこそ」
力強い口の線が、ふとほころんだ。
「おれより先に死ぬなよな」
「え?」
「男の本音」
藍音はぱちぱちっとまばたきした。 それから彼の手を離して甲を叩き、その後抱きついた。
下に豪快で陽気な両親がいるため、本格的にいちゃいちゃすることはできなかったが、抱き合ってちょっとごろごろしたり、やや濃厚なキスをするぐらいはやれた。 それで二人は、四半刻ほど楽しくべったりした後、手をつないで階段を下りていった。
がっちりした体格と悠々迫らぬ雰囲気を持った父親は、もう食事を終えて晩酌でくつろいでいた。
藍音がリビングの出入り口で挨拶をすると、夫妻がそろって顔を上げた。
まず母親が、
「入って入って。 ちょっとだけお話していきましょうよ」と言うと、父親も深い声で妻に加勢した。
「おまえも入ってこいよ、晶」
誇りではちきれそうになっていた加藤は、もう事情を隠しておくことができなかった。 胸を張って藍音を振り返り、無言の了解を取ると、彼女の手を引いて居間に入っていった。
若者ふたりが体を寄せ合い、並んで立った姿をみたとたん、両親は事情を飲み込んで真面目な表情になった。
やや紅潮した顔を上げて、加藤は口にした。
「今、上でプロポーズしたんだ。 彼女、受けてくれた」
「まあ」
母親がささやき声で言った。
それから急激にトーンが上がった。
「まあ、おめでとう! さ、二人とも座って!」
落ち着いた父親もさすがに興奮を隠し切れず、まず下の息子を、それから横の穏やかな印象の綺麗な娘を、いぶかる眼差しで眺めた。
「確かにめでたいが、藤咲さん、本当にコイツでかまわない?」
「父さん」
半ば本気で怒って、加藤は父親を睨んだ。
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