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その147 部屋を見て
強く勧められたとはいえ、一家の主が帰るより先にご馳走になってしまったので、昌二氏がゆっくり食事ができるように、加藤は自分の部屋へ藍音を連れて行くことにした。
彼の部屋は、二階の突き当たりにある八畳間だった。 作りつけのクローゼットがあり、部屋に出ている家具はベッドとデスクと椅子だけ。 後はデスクの上にあるラップトップパソコンしかなく、清潔ながらさっぱりしすぎて殺風景なほどだった。
「すごく、えーと、きちんとしてる」
形容に困った藍音を見て、加藤は陽気な笑顔になった。
「外に出さないんだ。 掃除が楽なように。 でも実は」
つかつかとクローゼットに行って扉を開くと、三畳ほどある大きな押入れ部屋は物だらけだった。 本棚、衣装箪笥、スキー板に山積みのダンボール箱に、昔ながらのブラウン管テレビまであった。
「それまだ映るから、ゲームするときに役に立つんだ」
確かに一杯積んであるが、細かいものはステンレスの業務用棚を使って、奥まで使いやすく整理されている。 藍音は驚くより感心した。
「でもやっぱりきちんとしてる。 運動部の人はしっちゃかめっちゃかなのが多いのに」
「運動部にもいろんなのがいるよ。 汚しまくるヤツもいるし、ビシッと服畳んで端をそろえてるなんてのもいて」
「どっちかというと、後の方?」
藍音が訊くと、加藤は笑いながら首をかしげた。
「どっちでもなくて、中間」
椅子はデスクチェアーしかない。 そこで加藤は何でもクローゼットから丸っこい座椅子と大きなクッションを二つずつ出してきて、フローリングの床に置いた。
「コーヒーか紅茶持ってこようか? それと、あったらケーキでも?」
「コーヒーいただきます。 ケーキは、おなか一杯だから」
「そうだよね。 じゃちょっと待ってて」
ドアを開けたまま、彼は出ていき、軽やかな足音が階段を下りていった。
藍音はゆっくり立ち上がり、壁にかかった二枚の額を眺めた。 一枚は大きく引き伸ばした家族写真で、現在より少し若い加藤の両親と、十代半ばと初めぐらいの二人の男の子が、風に髪をなびかせながら顔を寄せ合って写っていた。
下の子に、加藤の面影があった。 彼には兄がいるらしい。 白波を立てた海岸で、家族は四人とも実にくったくない笑顔を見せていた。
幸せな子供時代だったんだ──憧れとうらやましさの混じった気持ちで、藍音はその写真に見入った。
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