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その131 きっかけは
普段のクッション代わりに使えるように、藍音はデカ人参だけでなく巨大トウモロコシとカボチャも買った。
レジを通した後、かかえきれない縫いぐるみを無理やりつぶしてトートに入れようとしていると、陳列棚の向こうからひょいと姿を現した山路が、急ぎ足で近づいてきた。
「歩き?」
驚いて、藍音はバッグから目を上げた。
「そう」
すると山路は嬉しそうになって、道の向かい側にある小さな駐車場を指差した。
「僕は車なんだ。 送っていっていい?」
許可を求められた藍音は、いっそうびっくりした。 まるで送らせてもらえれば光栄だ、みたいな感じの言い方だ。
「え? でもすぐ近くだし」
「バッグがぱんぱんにふくれてて、歩きにくいんじゃない?」
間の悪いことに、ちょうどその瞬間、カボチャが一気に膨張して、ポンと空中に飛び上がった。 藍音は赤面して、あわてて飛びついた。
「あぁっと……」
天性の運動神経で、見事にキャッチしたものの、店へ買い物に来ていた母親と子供が面白そうに眺めていて、チビのほうが、
「あのおねえさん、ハジケてるね!」
と叫んだので、ますます顔が赤くなった。
急いで自動ドアから出ていくと、山路もすぐついてきて横に並んだ。 彼も楽しそうに微笑んでいた。
「ほんとナイスキャッチ。 バスケの選手みたいだった」
「やめて」
閉口して、藍音は早足になった。 すると山路は首をかしげて顔を覗きこんできた。
「なんで? かっこよかったって言ってるんだよ。 あの子だって」
そうなの?
藍音は派手に振舞うのが苦手だった。 というより、性質上できなかった。
だが、このあけっぴろげな誉め言葉は、心に響いて胸を仄かに温めてくれた。
なぜだか、理由はわからない。 もしかすると、失恋の痛みがじわじわと食い入って、藍音から自信を奪っていっているのかもしれなかった。
今の藍音には、慰めが必要だった。 忙しくしているだけでは得られない、ちょっとした気晴らしが。
彼女は三つの噛み噛みおもちゃを交互に押さえつけながら、山路に背を押されるようにして道路を渡り、駐車場に入っていった。
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