表紙目次文頭前頁次頁
表紙

 その116 怪しい侵入





 藍音と母は玄関前の石段で立ち止まり、感じのいい青年を見た。
 寿美が代表して、彼に答えた。
「はい、親戚ですが」
 青年はホッとした様子で、門の前までやってきた。
「僕はあの」
 振り向いて、斜め前の白っぽい家を指で指してから、彼は説明した。
「あそこの家に住んでるんですけど、ちょっと気になることがあって」
「なんでしょう?」
 寿美がおだやかに尋ねると、青年は眉根に皺を寄せて思い出すような仕草をした。
「ときどき、ここに男の人が来るんです。 道を歩いてるだけじゃなくて、この間は庭に入ってたらしくて、もしかしたら泥棒じゃないかな」
 寿美と藍音は緊張して顔を見合わせた。 その様子を見て、青年は言い訳っぽく付け加えた。
「前はご近所には関心がなかったんだけど、事件が起きてからは道を通る人なんかが気になっちゃって」
「注意してくださってありがとう」
 そう寿美が応じた直後に、藍音は思い切って尋ねた。
「その人、どんな感じでした?」
 初めて藍音の声を聞いて、青年は目をぱちぱちさせた。 少し意識しているように見えた。
「あの、実は写真撮ったんですよ。 GW用に望遠つきのカメラ買ったもんで」
 ちょっと持ってきます、と言い置くと、青年はサンダルをばたばた言わせて斜め前の家に飛び込んでいった。


 残された母子は、半ば当惑して顔を見合わせた。
「泥棒か、野次馬かな」
「どっちにしろ、嫌ねぇ。 知らない人が庭をうろうろしてたら怖いじゃない」
「遺品を整理し終わるまで、ガードマンに頼もうか?」
「いいけど、お金もったいないよ」
 母はあくまでも庶民感覚だった。
「警察に頼んでパトロールの回数増やしてもらったら?」
「誰が警察に言うの?」
 パトカーの姿を見ると未だに胃が重くなる。 藍音は警察に反感は持っていなかったが、まだ事件のショックが尾を引いていた。
 母も気がついたようで、困った顔になってぽつんと言った。
「やっぱり警備保障に任せたほうがいいか」
 そこへサンダルの音が近づいてきた。 青年が手をかざして、銀色の一眼レフカメラを大きく振ってみせた。










表紙 目次 前頁 次頁
背景: はながら屋
Copyright © jiris.All Rights Reserved
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送