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その105 犯行の真相
インテリの犯人は、理詰めで迫られると弱いという。
駒石も、警察が集めた理路整然とした証拠を前にして、あっけないほど早く罪を認め、自白を開始した。
妻の親族の反対を押し切って結婚した駒石は、当初からプレッシャーにさらされていた。
地元の名家出身の麻衣子にふさわしい夫になろうと背伸びして、投資や儲け話に手を出したが、ほとんど失敗。 とうとう妻と共同で積み立てた預金にまで手をつけてしまった。
そこへ振って湧いたように、麻衣子の医院を改築する話が持ち上がった。
駒石は青くなった。 愛する妻だけには知られたくない。 成功していると思わせたいという見栄もあった。
最後の頼りは、昔の共犯者である富豪の邦浩しかなかった。
だが、詐欺の金をきちんと折半した邦浩にしてみれば、あんな大金をあっさり使い切って借金まみれになった駒石はバカとしか思えなかった。 二人は言い争い、とうとう駒石は義兄との共謀をばらしてやると脅迫して、ようやく例の明の陶器を売る許可を貰った。
それでも借金は残った。
遂に駒石は泥棒に身を落とし、体の弱った邦浩があまり動けないのを幸い、ヘルパーの来る寸前に忍び込んでは戸棚を開けて、彼女が帰るまでの時間帯に、次々と金目の物を盗み出した。
しばらくの間はうまく行っていた。 だが、あの日に限ってヘルパーが都合で早く帰り、駒石は広い屋敷に閉めこまれてしまった。
たまたま邦浩の体調がよくて、普段は来ない客間に現れたのも、駒石には致命的な不運だった。
駒石はあわてて、借りていた身分証明を返しに来たのだと言いつくろった。 しかし邦浩は騙されず、焦った駒石が床に落とした証明書を拾おうとする間も、厳しく叱った。
そこで駒石は切れた。 逆上して、上半身を起こしながら、盗んだばかりの布袋〔ほてい〕像を懐で持ち直し、やみくもに邦浩を殴ってしまった。
身をかがめた姿勢から殴りつけたため、身長183センチの駒石にはふさわしくない低い位置からの打撃になった。 そのことが捜査を迷わせたのだった。
「死なせるつもりはなかったんです。 ただカッとなってしまって……。
まさか彼が、庚申丸の真相をブログに書いているとは知りませんでした。 きっとだいぶ前から、追い詰められた僕を怖がって用心していたんですね」
そう呟いて、駒石はがっくりと肩を落とした。
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