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 その104 犯人は誰か





 かける前よりいっそう混乱した悲しい気持ちで、藍音は公衆電話を離れた。
 加藤の暗い口調も気にかかるが、それ以上に、俺から説明しようか? と言った聞きなれない声のほうが衝撃が大きかった。
 加藤は職務停止にはなっていない。 署内か、または外で仕事をしている最中で、相棒らしい人が一緒にいる。
 だが彼は、手紙のことを上司に話した。 ブログについても教えたにちがいない。 私と組んでいたことを言わないで、どうやってそんなことができたんだろう。
 藍音にはわからなかった。 ただ、加藤を信じようとしゃにむに思った。 昨日、手紙を取りに来た刑事ふたりは、礼儀正しい態度だった。 たぶん私は容疑者から外れたんだ。 そう立ち回ってくれたのは、加藤にちがいない。




 警察組織を挙げての捜査は、個人での調査とは比較にならない速度で進んだ。
 詐欺チームは、庚申丸〔こうしんまる〕という勘合貿易船を海底で発見したとして、引き揚げを申請していた。 その申請者、明石三千男の過去を詳しく調べると、思いがけない人間に行き当たった。
 明石は大学の寮で、駒石肇〔こまいし はじめ〕、つまり被害者の妹である麻衣子の夫と、同部屋だったのだ。


 これで捜査本部の目標は定まった。
 しらみつぶしに駒石を調査したところ、実は彼が最近、金に困っていることが明るみに出た。 初めは友人に借りたりしてごまかしていたが、それでは間に合わなくなり、こっそりと金融会社からまで借金をしていた。
 駒石が静岡から車を飛ばして、何度も東京に行っていたことも、高速の監視カメラ映像で立証された。
 

 しかも間もなく、駒石が渡部邦浩の名を使って、貴重な明時代の陶器を美術商に売っていたことがわかった。 被害者の生前に、すでに彼の身分証明を持っていたわけだ。


 こうして、念入りな裏付け調査の後、五月も押し詰まった三十日に、駒石肇は第一級殺人罪で、三島市の自宅において逮捕された。










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