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その100 不吉な予感
ようやく驚きから覚めた課長は、厳しい表情になった。
「わかってるだろうな。 上司を通さずに抜け駆けなんて、チーム行動を乱す真似は許されないんだぞ」
「ですが、相談相手になっただけです」
加藤はめげずに反論した。
「変な真似はしてません。 友達に毛が生えたぐらいの付き合いで」
「どんな毛だ」
課長は椅子の周囲を回り歩きながら、ぶつぶつ言った。
「大したことしてないです。 それでも、貴重な情報を入手しました」
稲本課長の足が、ぴたりと止まった。
半時間後、警察署の中がにわかに活気づいた。 新たな情報に基づいて次々と指令が出され、山口県へ調査に飛ぶ者、再び静岡に向かう者、そして藍音の家におもむく組が、あわただしく選ばれた。
加藤は報告遅れをみっちり絞られた後、元宮と共に、船引き揚げ詐欺が行なわれた頃の被害者の交友関係を洗い直す作業に回った。 もう藍音と接触してはいけないというのが、上層部の方針だった。 捜査の常道を逸脱しているので、新聞種になって非難されたり、本人から訴えられるのを防ぐためだと、加藤はきっぱり言い渡された。
藤咲家のドアチャイムが鳴ったのは、土曜日だから午後には家に戻れた母と、寝坊のあと遅い朝食・昼食兼用のブランチを取ってトビーの面倒を見ていた藍音が、夕食に鍋焼きうどんを作って今にも食べようとしていた午後七時半だった。
すぐにトビーが反応して吠えた。 そして、藍音が立って玄関に行こうとすると、追い越してドアの前に陣取った。
「どちらさまですか?」と尋ねた藍音に、落ち着いた男の声が応じた。
「警察です。 開けてください」
藍音はよろめきかけた。 ドアノブを握った手から力が抜けた。
チャイムが鳴ったときから、嫌な予感がしていたのだ。 空腹な上に怯えたため、胃がシクシクしてきた。
「逮捕ですか?」
「いえ、違います」
穏やかな声は、驚いたように言った。
「新たな証拠をお持ちなようなので、そのことについてお話を」
言葉遣いが礼儀正しい。 藍音はとりあえずホッとすると同時に、別の心配がむくむくと頭をもたげるのを感じた。
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