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表紙

 その97 明日こそは





 藍音はどきっとした。
「玉井静歌さん? 晶、会ったんだよね?」
「会ったよ」
「身長、どのくらいだった?」
「そうだな、藍音ぐらい」


 二人とも同時に、はっとなった。 渡部邦浩を殴った犯人と、背の高さが合う。
「まさか……」
「どうかな。 違うとは思うけど。 主犯のTは男って書いてあるし」
「そうだよね」
 だが玉井静歌も共犯かもしれない。 離婚したときのわだかまりのせいで、恨みをずっと引きずっていたかも。
 そこで藍音は気付いた。
「その話の中で、社長の頭文字、Mになってる。 だからTも本当とは違うかも」
「ああ、そうか」
 残念そうに、加藤は息をついた。
「渡部さんは用心深すぎるな。 頭文字くらい合わせたっていいのに」


 ともかく、この『小説』が究極の手がかりだというのは明らかだった。 加藤は武者震いが出る気分で、藍音に伝えた。
「明日一番で、海底調査について調べるよ。 Tがわかったらすぐ電話する」
「ありがとう」
 強い感謝が藍音の声に出た。 加藤が電話の向こうにいて、自分の味方になって頑張ってくれる。 それがどれほど心強いことか、何度礼を言っても言い足りなかった。




 電話を切った後、加藤は拳を握りしめて、薄暗い部屋の中で派手な光を放つパソコンの画面を見ていた。
 初めは、ブログに公表するなんてヤバいことを、と思った。 だが考えてみると、日本では世界一という物凄い数のブログが作られていて、それを人に見てもらうだけでも大変だということに気付いた。
 まして、保護をかけてパスワードがなければ入れないブログなど、読みようがない。 たとえハッキングしても、最初の長々とした文章でUターンしてしまうはずだ。
 渡部元社長の判断は、けっこう的を射ていたかもしれない。






 同じころ、藍音も興奮して眠れず、パソコンを消しかねて、最後の部分をもう一度読んでいた。
『……M社長は、悪に組していることを充分承知していた。
 しかし、彼にとってはやむを得ない事情があった。 バブルの最中、部下が投機に踊り、使い込みで会社の資金に大穴を開けていたのだ。 それは、子会社の一つが不渡手形を出す寸前に追い込まれるほどの巨額損失だった』











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