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 その96 夜中の相談





 渡部邦浩は、詐欺に加わった。
 普通なら激しく失望するところだ。 だが、最後の段落を読んで、藍音は彼だけを非難する気持ちはなくなっていた。


 迷いながら時計を見ると、すでに夜中の一時を回っていた。 こんな時間に加藤を叩き起こすのは気が進まないが、重大な発見を明日まで知らせずにおくのはもっと悪いことに思えた。
 藍音は寝ている母に迷惑をかけないようにリビングへ移り、加藤の携帯にかけた。 すると深夜にしては驚くほど早く、加藤は電話口に出た。
「藍音、なんかあった?」
「うん、遅くてごめん」
「そんなのいいよ、大事なことなんだろう?」
「そう。 あの、近くにパソコンある?」
「ああ、つけるか?」
「すぐつけて」
 ガサガサという音がして、加藤が立ち上がって機器のスイッチを入れるのが伝わってきた。
「ついたよ。 どうする?」
 藍音は自分のパソコン画面を見て、ブログアドレスを告げた。
「ブログを見て。 kumo396@ohzora.com ってところ」
 加藤が息を呑むのが聞こえた。
「雲ミクロか! すげぇ、よく見つけたな」


 パスワードを入力してから、最初の部分をすっ飛ばして、加藤はすばやく本文に目を通した。 その間、藍音はやきもきしながら彼の感想を待っていた。
 読み終わると、加藤は深刻な声になった。
「社長の暗い過去か。 同情はできるけど」
「明るみに出たら、死んでからも裁かれる?」
 心配そうな藍音に、加藤は少し考えてから答えた。
「いや、死後は裁判にはかからない。 それに、たとえ詐欺が立件できたとしても、もう時効だろう」
 時効か……。 ブログによれば1991年に実行されたらしいので、二十年以上経っている。 藍音は内心、胸を撫で下ろした。


 それから二人は、ブログでわかったことについて、じっくり話し合った。
「渡部さんが身の危険を感じて、これを書いたんだとすれば、犯人は首謀者のTってヤツだな」
「きっとそう。 1991年にサルベージの許可を取った人を探せば、Tが誰だかわかるね!」
「関係者に頭文字Tの人間は、と」
 加藤は手持ちの資料を調べはじめた。 そして呟いた。
「真っ先に出てくるのは、別れた奥さんの玉井静歌だけどな」











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