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 その93 用心を重ね





 嬉しいというよりあっけに取られて、藍音はまじまじと画面を見つめてしまった。
 それからハーッと一つ大きく息を吐き、勢い込んで内容に目を通した。 すると、『ここは素人の小説ブログです。 単なる趣味で仲間内でだけ楽しむ内容ですので、一応承認制にさせていただいています。 申し訳ありません』と前置きがあり、パスワードの入力欄が設置されていた。


 藍音は急にドキドキしてきた。 俳句を解読した数字が、ここで役立つのか。
 初めは2から入力してみたが、パスワードが違うとはじかれてしまった。 それで、中の句の分だけにすると、パッと背景が変わり、緑に色取られた渓谷の写真を壁紙にしたブログが姿を見せた。
 それから十数分、藍音は長々と書かれた話を黙って読んだ。
 途中で猛烈に眠くなり、目がかすんできたが、それでも頑張った。 中身は企業合併の裏話らしい。 らしい、としかわからないほど一つの文章が長くて回りくどく、会社関係者である登場人物がみな男。 ユーモア小説さえ苦手であまり本を読まない藍音にとって、ひどい苦痛の十五分だった。


 我慢して一番下までたどり着いたとき、右端に堂々と書いてあった。
『つづく』
「うあ〜〜」
 藍音は頭を抱え、気分転換に冷蔵庫へレモンソーダを取りに行った。


 それでも乗りかかった船だ。 タゲリという妙なブログネームを使って書いた《ある合併の陰に》という話の続きを読む覚悟を決めて、藍音はドサッと布団に座りこみ、また電話に集中した。
 ところが、次に現われた画面は、まるで様子が違った。 事務的だがきびきびした読みやすい書き方で、まったく別の話が載っていた。
 数行読んだところで、藍音は思わず膝立ちになった。 前の退屈なページはいわば引っ掛け、バリアのようなものだった。 ここからが本筋なのだ。
「お母さん」
 最初は小声しか出なかった。
 横に敷いた布団にもう寝ていた母は、起きずに何かむにゃむにゃ呟いて、頭から毛布を被った。
 疲れているのはわかっていた。 でも話さずにいられない。 藍音は畳の上をにじり寄って、母の肩を叩いた。
「お母さん、起きて。 大変なことが書いてある!」












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