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表紙

 その71 再調査して





 もともと静かな場所にある奥まった屋敷だが、主が殺された今では更に静まり返って、薄暗い室内は不気味ささえただよっていた。
 まだ電気は止められていないので、刑事たちは遠慮なくつけた。 まだ被害者のアウトラインはなまなましく残っていたが、部屋は死体の発見時そのままに、整然と片付いていた。


 最初のときとは違う必死な気持ちで、加藤は部屋を戸口から掃き出し窓まで見て回った。
 渡部氏が倒れていた傍のローテーブルと、横のソファーや椅子は、特になめるように観察した。 鑑識が細かく調べた後なので、遺留物が残っているとは思えなかったが。
 それから、入り口から見て右奥の壁を天井まで覆っている作りつけの飾り棚を調べた。 立派ながっしりした木製の棚で、前面は強化ガラスで覆われている。 中には、いかにも功成り名遂げた男性が集めそうな、立派な壷や皿、アラジンのランプに似た金属製の香炉などが、美術館風に並んでいた。
 その他、入り口の横にあるサイドボード、反対側の横に立つ洋服掛け、すべてがきちんとしていた。 人の住む家というより、住宅展示場のモデルハウスみたいだ、という印象が、加藤の頭に残った。
 携帯で端から密に写真を撮りながら、加藤は呟いた。
「生活臭がないですね、ここ」
 自分もあちこち要点的に眺めていた元宮が、顔を上げた。
「客間だからな。 いいよな、うちはリビングで全部やるんだぜ。 客があるたびに片づけが大変だから、小ちゃくても和室が一つほしいって、かみさんがぼやいてるよ」
「たいていの家がそうなんじゃないですか? ここが特殊なんですよ」
 そうだ、こんなぜいたく野郎がいなければ、藍音がひどい目に遭うこともなかったんだ──生前をまったく知らない元社長に、加藤は獰猛な怒りを感じた。




 一時間半ほどみっちり調べて、二人は現場を離れ、警察署に戻ることにした。
 その途中で、食堂を見つけて入った。 新たな手がかりが発見できなかったため、加藤はがっかりしていて、どうしても口数が少なくなった。
 親子丼をかき込みながら、元宮が訊いた。
「目当ての物は見つからなかったか?」
 加藤は視線を下げた。 どうしても溜息が出た。
「ええ」
 元宮はベテランらしく余裕の口調になった。
「調査済みなんだ。 そう簡単に手がかりは出てこないさ」
 そんなことは言われなくてもわかっている。 ただ、考えているうち不意に予感がしたのだ。 犯人は何かを盗もうとした。 その盗品が、部屋を見たら判別できるのではないかと。











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