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 その70 厳しい調べ





 栗田はそこで、がらりと態度を変えた。 目が鋭くなり、なんとなく肉食獣の雰囲気をただよわせ始めた。
「じゃ、こういうことか。 ヘルパーが来る時間帯、玄関が開いているのはわかっていた。 だからその前か途中に、そっと玄関から入って、広い家のどこかに身を隠していた。 被害者は体が弱く、そんなに動けないから、隠れるのは簡単だ」
 やめてよ──結果から経過を作り上げる捜査官たちに、藍音は疲れ果てた。
「そして、風呂の介護を受け、夕食を取って寝ようとする被害者を客間に呼び出し、持参した凶器を隠し持って、隙を突いて一撃で殺した」
「ありえない」
 その言葉は、無意識に口から飛び出した。 心底うんざりしていたから、軽蔑の響きを隠しきれなかった。
 栗田がむっとなったのが伝わってきた。
「大ありだよ、お嬢さん。 大金のためなら、人は何だってするんだ」

 遺されることさえ知らなかった遺産なのに?

 栗田の声は皮肉を帯びて続いた。
「税理士になるんだろう? 計算は得意だ。 なあ? 母親と相談してやったのか? ちょうど外国旅行中なんて、アリバイ作りにぴったりだよな」
 藍音は息を吸って、怒りを押さえた。 相手は興奮させて失言を待っているはずだ。 その手に乗っちゃいけない。 ささいな言葉尻でも捕らえられて、都合よく解釈される。
「私の父は九州にいます。 お父さんが父親だと、普通に思ってました。 今でもそうとしか考えられない」
 まっすぐに目を見て答える娘を、栗田は苛立ちをにじませた視線で見返した。




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「まだ昼まで時間ありますよね」
 運転席から加藤が声をかけた。 気温が上がってきたため、ハンカチを出して軽く額をぬぐっていた暑がりの元宮は、眠そうな目を横の後輩に向けた。
「で?」
「コロシの現場へ行きません?」
 元宮は、おや、というように目を細めた。
「最初に入ったの、おまえだろ?」
「ええ」
 加藤は低い声で認めた。
「でもあのときは、現場保持に手一杯で、何をどう探せばいいかわからなかったですから」
「今なら何か目当てがあるのか?」
「ええ、ちょっと」
 ハンカチをしまうと、元宮は軽く手を振った。
「いいよ、行こう」











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