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 その69 心臓に悪い





 元宮はひらめいた様子で、車外の街並みを眺めながら口にした。
「共犯者ってより、そっちの単独犯って可能性もあるな。 かわいい女子学生と付き合ったら何十億もの遺産がついてくるとわかって、早めにオヤジを始末して彼女もろとも頂くとか」
 目を白黒させながらも、加藤はかろうじて反論した。
「身長162から165のチビ男がカレシ? そんなのありですかね」
 元宮はクスクス笑い出した。
「言ってみただけだよ。 可能性を探るってやつ?」
 それから真顔になって付け加えた。
「彼女に限っては、そんなのなさそうだな。 今んとこわかってる限りでは超まじめ人間で、ガリ勉とアルバイトで一日つぶれてるみたいだからな。 大学でも堅物で通っていて、男の影もない」
 隣で何でもなさそうに運転している後輩が、ぎくっとした肩の力をようやく抜いているとは、元宮には想像もつかなかった。




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「それで、何使って殴ったの?」
 もう一時間ちかく、こんな質問が続いている。 藍音は忍耐を失わないよう気をつけながら、栗田の目をしっかり見返して答えた。
「殴ったりしてません」
「君、右利きだよね?」
「はい」
「君がテーブルの横で腕を思い切り振ると、ちょうど被害者の側頭部にあの角度で当たるんだ。 ほら、あのガラステーブル」
 それから、栗田はさりげなく質問を付け加えた。
「下に棚がついてて、何か入ってたんだよね。 とっさに引っ張り出して手に掴んだんだろう?」
 藍音の表情はまったく変わらなかった。
 当然だ。 そんなテーブルなんか見たこともないのだから。
「いいえ」
 栗田はまったく耳に入っていないかのように質問を続けた。
「渡部さんがムカつく事を言ったんだろうね。 長いこと放っておいて、学費どころか生活費もビタ一文出さず、体が弱って気も弱くなってから急に、娘として認める、財産も残すって言われてもね」
 わざわざ否定するのも嫌になって、藍音は黙っていた。 すると、栗田は切り口を変えてきた。
「それとも、遺産残されたって知らなかった? ただ呼び出されただけで、話し合いの前から怒ってたの?」
「いいえ」
 理性を保たなければ。 藍音は辛抱強く繰り返して答えた。
「呼び出されてません。 渡部という名前も知らなかったです」











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