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 その68 新たな証言





 事務所によると、渡部家のヘルパーをしていた三国弓恵は、M市の北にあるマンション『スカイハイムM』へ仕事に行っているとのことだった。
 さっそく、元宮と加藤はそのマンションへ車を飛ばした。 四階まで上がってチャイムを鳴らすと、三国は仕事場まで警察が来て当惑した様子だったが、もう十五分ほどで終わるので待ってくれるように言った。


 やがて帰り支度を済ませて出てきた三国と刑事二人は、曇り空の下、そよ風が吹き渡る共有通路で話をした。
 加藤が予想した通り、三国は藍音に関しては何も知らなかった。 知らないどころか、これまで毎週通っていた渡部邸では、若い女性の訪問者など一人も見かけなかったと断言した。
 元宮はそこで質問を打ち切ろうとしたが、加藤はもう少し尋ねた。
「じゃ、男性の訪問者はいたんですね?」
 三国は大きめのショルダーバッグを掛け直しながら頷いた。
「はい、たまに」
「その中で、喧嘩になったような人は?」
「いえ……」
 そこで三国はためらった。 加藤は思わず前のめりになりかけて、熱心に問いただした。
「いたんですね?」
「いたっていうか、来てた人じゃないんですけど」
 困ったように、三国は声をひそめた。
「電話でね。 何回か同じ時間にかけてくる人がいて」
「男性?」
「ええ、たぶん」
「どんな内容でした? わかる範囲で教えてください」
「えぇと」
 三国は眉の間に皺を寄せて考えた。
「何かを譲〔ゆず〕るとか譲らないとか言ってましたよ。 
 初めは静かに話してたんですけどね、三回目ぐらいからは渡部さんもうるさくなったみたいで、何度言われても手放せません、お譲りできませんからって、そっけなく答えて、切ってました」
「それで渡部さんは、相手の名前を電話口で言ってました?」
「さあ、注意して聞いてなかったから」
 困ったように三国は答えた。


 帰り道、元宮は口数少なく運転している加藤をちらちら眺めて、あやすように言った。
「気合入ってるね。 意欲的に質問してたじゃない」
「いや…… 女性は見たことないって強調するから、それなら男は来てたんかなと思って」
「彼女に共犯がいる可能性?」
「え?」
 意外な問いに、思わず加藤は素っとんきょうな声で訊き返してしまった。











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