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表紙

 その52 遺書の内容





 本部の置かれた警察署に着き、車を降りてから、加藤は少し立ち止まって、なんとか気持ちを切り替えようとした。
 これからは仕事だ。 捜査に集中。 私生活のことは頭の裏側にしまいこもう。
 というより、忘れてしまいたい。 全部駐車場のアスファルトに投げ捨てたい気分だった。


 加藤が署内の刑事部屋に入っていくと、デスクに腰掛けて同僚と話し込んでいた元宮が立ち上がり、せかせかと近づいてきた。
「やっと来たか。 何やってたんだ」
「いや、腹がすいたんで、早めに夕飯でもと思って」
 そう答える声が、自分の耳に虚ろに響いた。 幸い、事態の急展開に興奮している元宮は、加藤の放心状態に気づかず、知っていることを伝えようと早口になった。
「例の隠し金庫からぼろぼろ出てきたんだってよ。 まず女の子の写真が袋にてんこ盛りで」
「あの赤ん坊は女の子だったんですか?」
「そう。 それから幼児になって、学校へ上がって、運動会に出て、とか、ぜんぶ時系列になって入ってたんだ」
 心が揺れたままの加藤でも、この情報には少し興味が湧いた。
「やはりガイシャの子?」
「だろうな。 まだ本人とのDNA鑑定はしてないみたいだが、おそらく残留毛髪とぴったり一致すると思う」
「で、もう参考人として引っ張ってる?」
 元宮は大きく頷いた。
「思ったより早く片付きそうだな」
「すごいですね。 どうやってそんな素早く発見したんです?」
「遺言状だよ」
 自分が見つけたように、元宮は満足そうな笑みを浮かべた。
「ガイシャは慎重な性格だろ? 遺言書の本物は弁護士に預けて、写しを金庫に入れといたんだ」
「その内容は?」
「兄弟の取り分と、一部を公共団体に寄付するほかは、大部分を実の娘一人に遺贈することになっていた」
「はあ」
 感嘆して、加藤は指をぼきぼき鳴らした。
「すごい金額じゃないですか?」
「すごい動機でもあるな」
 二人の刑事は目を見合わせた。











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