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その51 昔の思い出
犯行時刻の頃どこにいたかという質問に、藍音は記憶と、バッグに入れた手帳の予定表を頼りに、できるだけ答えていった。
説明している間も、脳の別の部分は忙しく回って、警察が出してきた写真のことを考え巡らせていた。
あの写真群は、自分のこれまでの人生を、ずっと撮り続けていた長い記録だ。 それを殺人事件の被害者が持っていたというのか。
なぜ! いったい何のために?
その心当たりは、一つだけあった。
被害者は、もしかしたら母方の親戚なんじゃないだろうか。
藍音の母の母、つまり祖母は、母が結婚する前に世を去っていた。 祖父のほうは各種鋼管を製造する会社に勤めていたが、脳梗塞で倒れて動けなくなり、長男である母の兄が面倒をみることになった。 そのとき母の寿美は夫に去られた直後で、介護に参加できず、兄と気まずくなり、今ではほとんど連絡がない。
──兄にあたるその伯父さんはお母さんの実家名の梁田〔やなだ〕姓だから、渡部という名前じゃない──
ただ、祖父の弟が一人、行方知れずになっているという話を聞いたことがある。
家出したわけではないらしい。 祖父の紹介で入った会社を一方的に辞めて、親兄弟と気まずくなり、音信不通になっただけだが、藍音が小さかった頃、その大おじさんが近所にいて、よく公園で遊んでくれた思い出があった。
彼は子供好きで、まだ幼稚園にも行っていない幼い子の相手を、楽しそうにやってくれた。 ブランコを押し、手を貸して雲梯にぶらさがらせてくれ、打ち解けた後は脇をくすぐって藍音をキャッキャッと笑わせた。
折り紙で舟を作り、帆のてっぺんを持たせて「さあ、目を閉じて」と言い、次に目を開くとなぜか持っているのが舟の舳先〔へさき〕になっている、という遊びが不思議でしかたなかった。 何度も頼んで挑戦したのを覚えている。
春から夏にかけて、大おじさんは何度も遊びに来た。 それからフッと消えて、楽しく懐かしい思い出を藍音に残した。
名前は記憶にない。 ただ、おじさん、と呼びならわしていた。 あの大おじさんなら、私の写真を持っていても不思議じゃない。
実際、彼がカメラを構えている記憶がある。 本職のカメラマンのように、話しかけながらレンズから意識をそらして、リラックスしたところを何枚も撮影していた。 母が横で、髪を風になびかせながら微笑んでいたのを覚えている。
あの頃は、藍音には悩みなんか一つもなかった。 かわいがられ、甘やかされた小さなお姫様だったから。
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