表紙目次文頭前頁次頁
表紙

 その49 写真が一杯





 次に山村は、質問の方向を変えた。
「あそこの経済学部というと、京王線で行けましたっけ?」
 急に矛先がそれたため、藍音は一瞬とまどった。
「いえ、中央線に乗り換えて行きます」
「となると」
 山村は、傍の棚にある路線図に手を伸ばして取った。
「M市を通りますよね。 定期券、買ってるでしょう?」
「はい」
「じゃ、いつでも途中下車できる」


 不意に藍音は、質問の方向性を悟った。
「あの、私が途中で定期使って下りて、その渡部さんという人の家へ行ったと?」
「そうは言ってませんよ。 可能性があるというだけで」
「信じられない」
 考える間もなく、言葉が飛び出した。 どうしても抑えられなかった。
「ぜったい何かの間違いですよ。 その人の名前聞いたことないし、住んでいるところだって知るわけない。 何の接点もない人で」
「そう言い切るの?」
 山村の表情が険しくなった。 視線が急速に冷たさを増す。 それでも藍音はたじろがなかった。 自分の言葉に絶対の自信があった。
「じゃ、これを見て」
 さっきの封筒に手が入り、一掴みはある写真を取り出した。
 トランプをするときのように、その写真が藍音の前にずらりと並べられた。
「これみんな、あなただよね?」


 左端から、藍音は写真を眺めた。
 畳をはいはいしながら首を上げ、笑っている赤ん坊。 ランドセルを背負って友達と談笑しながら歩く女の子。 中学時代の運動会。 大きめの制服がぎこちない高校生。
 それらにはすべて、藍音自身が写っていた。
 だが、どれ一枚にしても、家のアルバムに貼ってある物ではなかった。


 顔を近づけて、二度じっくりと眺めてから、藍音は顔を上げた。
「これは……?」
 山村は片方の眉を上げた。
「被害者の渡部さんが持っていた写真です」
「でも」
 藍音の声がざらついた。
「親が撮ったんじゃないです。 これまでこんなの見たことない」
 その視線が、高校のときの制服姿を捉えた。
「バックがこんなにぼけてます。 これ、望遠で撮影したんですよね」











表紙 目次 前頁 次頁
背景: はながら屋
Copyright © jiris.All Rights Reserved
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送