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 その42 第二の金庫





 その遺言書が、引き出しや金庫、書類入れなどには見当たらないのだと、元宮は良樹に打ち明けた。
「銀行の貸し金庫などに預けていたんですかね?」
「いやー、そこまでは兄弟でも話さないから。 預り証や鍵なんかはなかったんでしょう?」
「ええ、邦浩さんはとても用心深い方だったようですね」
「昔から心配性でね。 根が暗いって、よくからかったもんですよ」
 それまで主にメモを取っていた加藤が、顔をもたげて尋ねた。
「失礼ですが、離婚の原因になった女性に預けた可能性は?」
 良樹の表情が暗くなった。 しかし、怒った様子は見られなかった。
「いや……それはないと思うな、多分。 僕たち兄弟にさえ何ひとつ話さなかったし、もちろん紹介もしなかった相手だから。 再婚しなかった時点で、すでに縁は切れてたと思いますよ」


 加藤は元宮と、一瞬視線を交わした。
 良樹は子供の話を出さない。 おそらく知らないのだろう。 被害者の元夫人玉井静歌は、本当に口が固いようだった。




 ジンジャーエールとコンビニの鮭握りで簡単な昼食を済ませた後、二人の刑事はいったん署に戻った。
 すると、中では興奮ぎみの噂が飛び交っていた。 被害者邸の寝室を捜索していた班の一人が大男で、のっしのっしと床を歩き回っているうちに、足音が一箇所で他とわずかに違うのに気づいたという。
 そこは床板の切れ目を利用して、複雑な形の蓋になっていた。 その下には上等な薄型の金庫が仰向けに収められていて、販売会社に協力してもらって中を開くと、それまで見つからなかった私的な書類がずらっと出てきたとのことだった。
「権利書とか、写真や手紙なんかが束で見つかって、今細かく調べてる真っ最中」
「金目のものは? 札束とかさ」
「それは表向きの金庫にあったじゃない。 なにしろ几帳面なホトケさんだから、大事なものがみんな集まってるんじゃないかって、上もすごく期待してるってよ」
「これで一挙に解決ってことになってほしいな。 明後日は娘の誕生日でさ、帰ってやりたいんだ」
「ちょっと家に寄るぐらい、大丈夫だよ」


 おれも明日デートなんだ、ぜったい抜け出すからな、と、話に耳を傾けながら、加藤は心の奥で呟いた。












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