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 その41 遺言はどこ





 今のところ見つかってはいないが、被害者が遺言状を書いていたのではないかと言い出したのは、証拠品担当の杉原という刑事部長だった。
「これまでの調査で、被害者は非常に知的で、分類整理が行き届いた人物だとわかりました。
 しかも、異様なほど用心深い。 そういう人が、数十億の財産を宙ぶらりんにしておくはずはないと思うんです。
 まだ五十代とはいえ、すでにヘルパーを呼ぶほど体調が悪いですから、万一のときの準備をおろそかにして遺族の争いを招くようなことは、しないんじゃないでしょうか」


 こうして新たな方針が決まった。
 被害者宅に、絨毯の下や壁の絵の裏まで徹底的な捜索を入れると共に、親族や特に親しかった友人たちに、遺言について確認することになった。


 加藤と元宮は、弟の事件を聞いて駆けつけた長男の良樹氏を、ホテルに訪ねた。
 彼は弟にはあまり似ていなかった。 妹の麻衣子に見せてもらった若い頃の写真に比べると、ぐっと幅が出ている。 赤ら顔で、血圧が高そうだった。
 東京に来てすぐ警視庁に行き、名刺を置いてきたという彼は、二人が新たな情報を教えに来たと思っていた。
「どうぞ入ってください。 それで、犯人はもうわかったんですか?」
「現在、鋭意捜査中です」
 元宮が相手の先っ走りな興奮を抑えた。
「先だっての事情聴取へのご協力ありがとうございました。 今日はもう少しお話を聞きたくて伺いました」


 とたんに良樹は、露骨にがっかりした表情になった。 感情が顔に出やすい性質らしい。
「そうですか。 知ってることはみんな話しましたが」
 部屋の中でソファーと椅子に腰掛けて落ち着いてから、元宮は切り出した。
「亡くなった邦浩さんは相当な資産家ですよね」
「それはもうご存知でしょう?」
 やや皮肉っぽく、良樹は返した。
「でも、こう言っちゃ何ですが、僕も妹も金には困っていませんよ」
「いや、そういう意味ではなく」
 元宮は真面目に続けた。
「ご兄妹以外に遺産を受け取る人がいるかもしれませんので、遺言書があるかどうかご存知でしたら教えてください」


 良樹は一瞬目を丸くした後、大きく頷いた。
「なるほど。 可能性はありますね。 あいつがどこかに寄付したり、友達の事業に出資するってことはね。
 口が固いっていうか、昔から秘密主義なんで。 でも確か、遺書は書いたはずですよ。 それだけは言ってたから」













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