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 その40 DNA鑑定





「かけてくれてよかった。 明日のことだけどさ」
「うん、土曜日ね」
「そう。 まだ仕事がドカンと増えちゃって、並みの食事タイムぐらいしか取れないらしいんだ。 だから近場でいいかな? 遠くへ行くと、藍音を送っていけなくなるから」
「ああ、全然いいよ〜」
 藍音は電話口でまだ笑顔のままだった。 場所なんてどこでもいい。 加藤の顔を見られれば、それだけで。
 もうずいぶん会っていない気がした。
 オシャレな店に連れていけないという、そんな些細〔ささい〕なことでも悩んでいたらしく、加藤の声がパッと明るくなった。
「悪い! 今度埋め合わせするからね。 じゃ明日は『こうらく亭』にしよう。 あの、最初に行った店」
「はい。 向こうで待ち合わせる?」
「いや、六時半に車で藍音んとこに迎えに行く。 それぐらいさせて」
「ありがとう。 楽しみにしてるよん」
「こっちこそ」


 うきうきと電話を切った後、前を歩いていた高校生らしい男子二人が振り向き、一人が目をぱちぱちさせてみせたのに気づいて、藍音は赤くなった。
 うわー、私そんなに甘ったれた声出してた?
 どうやら出していたらしい。 自覚があった。 前には絶対できないと思っていたことを、次々とクリアしてしまっている。
 あらためて、恋の力は恐ろしいと藍音は悟った。




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 加藤が署に帰ると、また新しい事実が出ていた。
 殺人現場で鑑識が収拾した毛髪のうち、女性の髪は八人分あった。 そのうち二人分は、交代で来ているヘルパーのものと一致し、また当然、元妻のも存在した。
 そして残りの五人分の中で、三人が被害者と血縁関係にあった。


「三人?」
 捜査会議の進行役を務める山勢〔やませ〕係長が、けげんな声を上げた。
「ガイシャには妹が一人いただけだろう?」
「母親が健在なうちにあの家を訪ねたかもしれません」
「それでも、後の一人は?」
「ほんとに他に女の親戚はいないのか? おばさんとか従姉妹とか?」
 加藤がメモを渡し、元宮がすぐ答えた。
「ガイシャの両親とも女のきょうだいはいません。 母親は一人っ子で、父親には弟がいますが、そこも男の子が二人生まれただけです」












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