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その39 秘めた過去
木曜、加藤と元宮が署に帰って、調べた事実を捜査会議で詳しく報告すると、どよめきが起きた。
「他所で子供を生ませていたとなると、愛情のもつれという線もありえる。 現場にそれを匂わせるものは?」
進行係の山崎係長に尋ねられて、証拠品担当の一人の浜谷刑事が答えた。
「ガイシャは日記を残していませんでした。 現役時代の書類もほぼすべて処分されています。 用心深い性格だったらしくて。
写真は、三冊のアルバムに整理されているものと、デスクの引き出しの封筒に入ったものとがありました。 被写体は現在捜査中ですが、わかっている限りではほぼすべてが実家の家族と、学生時代の友人か会社の知り合いのようです。 親族以外では大部分が男性で、あとは離婚した奥さんとガイシャが一緒に写っているのが数枚。
若い女性や赤ん坊の写真は、まったくなかったです」
驚くほどの秘密主義だ。 それとも、離婚の原因になった子供から、もうすっかり関心が薄れたのか。
そんなはずはない、と、加藤は直感した。 むしろ、大事だからこそ徹底的に覆い隠したのではないかと思った。 それとも、赤ん坊はすでに亡くなり、辛い思い出を徹底的に身の回りから消したか。
金曜日の午後、薬局店主夫妻と別れた後、藍音は最寄りの駅への道をたどりながら、不意に寂しさをもてあました。
連休で浮かれている友達に電話をかける気にはなれない。 国際電話は高いから、よほど大変なときだけ使えと母に言われている。
となると、声をききたい相手は一人だけだった。
仕事いそがしいのに、かけちゃっていいかな。
不安に襲われながらも、藍音の手はもう携帯電話をバッグから取り出し、加藤の番号を選んでいた。
三度ベルが鳴って、加藤が低い声で応じた。
「やっとかけてくれた」
その言葉に胸を撫で下ろしながらも、口調に藍音は困惑した。
「今はまずい?」
「いや、車運転してるわけじゃないし、大丈夫」
「これから次のバイト先に行くの。 声が聞きたいなと思って」
「歩いてる?」
「うん」
「おれも今歩いてるとこ。 お互いきびしいな〜、休日だっていうのに」
「でも、おいしいお昼ごちそうになったよ」
「あー、自分だけ」
加藤が憤慨しているので、藍音はクスクス笑った。
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