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 その27 現場の状況



 玄関内は六畳ほどのホールになっていて、外はまだ明るいのに煌々とライトがついていた。
「ここの電気は?」
 シャンデリアまがいの大きな照明を見上げて加藤が訊くと、三国弓恵も高い天井に目を向けた。
「来たときからこうなってました」
 ずっと点けっぱなしになっていたとすれば、事件は昨夜か今朝の暗いうちに起きた可能性が高い。 閑静な住宅街だから、誰か物音を聞いているかもしれない。
 そう考えながら、加藤は三国の案内で廊下を歩き、左側にある客間の半開きになったドアから覗いた。


 ここも照明が灯ったままだった。 長方形の大きな部屋で、一部にテラスが張り出している。 その向こうには七十坪ほどの、この辺りにしては広い芝生の庭があった。
 客間は白壁で、茶色の腰板が張り巡らしてあり、重厚な雰囲気だった。 手前には本革のソファーと椅子二脚、それに角テーブルの応接セットと、大きなマッサージ椅子があり、奥には小型のグランドピアノが蓋を開いた形で置いてある。 奥の壁には天井近くまで、立派な作り付けのガラス戸付き棚がそびえていた。
 被害者は、ソファーの横の床に倒れていた。 横向きで、膝をかかえるように丸くなっている。 上になった左側頭部がざっくり割れて、板の間に敷かれたソフトグレイの絨毯に黒ずんだ血が大きな染みを作っていた。
 室内にそっと入り、床に膝をつけないように屈んで、加藤は被害者の頚動脈に指を当てた。 血液の流れはまったく伝わってこない。 目も確かに開きっぱなしで、すでに死後硬直の兆しがあった。


 死体に手を合わせてから立ち上がると、加藤は部屋の中に目を走らせた。 誰かが被害者の頭を殴ったと思われるが、該当する凶器は、ざっと見たところどこにもないようだ。 部屋はよく片付いていて、乱闘の跡はなかった。
「この方は一人暮らしですか?」
 加藤の問いに、扉の辺りで怖そうに覗いていた三国が慌しくうなずいた。
「はい。 前は運転手の人が一緒に住んでいたそうですけど、その人が急に亡くなったとかで、それでヘルパーに切り替えたんです」
「いつから?」
「去年の十月……いや、十一月でした。 クリスマスの飾りつけが始まってたから」
「そうですか。 それで今日あなたがここにいらしたとき、玄関はどうなってました?」
「ドアですか? 閉まってました。 でも鍵はかかってませんでした。 私が来るときは外してあるので、特に変だとは思わなかったんですけど」


 念のため、他の部屋や風呂場、トイレまで一通り見回ってから、加藤は本署に連絡を入れた。
 殺人か事故かは、詳しく調べてみないと断定できない。 しかし、被害者がよろけてぶつかって、あんなに鋭く深い傷ができるような家具は、室内にはなかった。
 そのことを告げている最中、近くの交番から警察官が駆けつけてきた。 加藤はその一人に三国を連れて行ってもらって交番に待機させ、現場保存用に規制線の準備を始めた。











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