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 その22 どの公務員



 その日の夕方、藍音がバイトを終えて少しした頃、加藤から電話がかかってきた。
「予定通り終わった?」
 ちゃんとバイトのスケジュールを覚えてくれてる。 藍音は笑顔になった。
「うん、十五分前に終わったとこ」
「会いたいな、声聞くとなおさら」
 そこで声がグッと落ち込んだ。
「ドカッと仕事入れられた。 信じらんないよ、連休の初日だぜ、まったく」
「こっちのお客さんはいつもより少なめだった。 遠出が多くて、買い物の間にちょっと立ち寄るっていうのが減ったのね、きっと」
 そのとき、ふと藍音の心に疑念がきざした。
「ね、公務員だよね?」
「そうだよ」
「公務員って、休日には完全休みなんじゃない?」
 一瞬の間が空いた。 それから明るい声が響いた。
「そうじゃないのもいるんだ」
「どんな?」
 声に笑いが交じった。
「よーし、じゃクイズにしよう。 明日また電話かけるから、そのときまでに考えといて」
「え? 教えてくれないの?」
「うん。 そのほうが面白い」
「もう。 何言ってるの?」
「ははは」
 本物の笑い声になって、電話が切れた。


 苦笑しながらも、なんとなく割り切れない気持ちになって、藍音は足を速めた。 彼女は商店街の雑踏の中にいて、母にはなかなか持ち帰れない水のボトルを買っていこうとしているところだった。
 普段なら折りたたみの自転車で買いに行くところだが、今日はバイト帰りだ。 とりあえず安売りで1.5リットルのを一本だけにして、大型ショルダーに入れた。
 それでもけっこう重い。 ゆっくり歩きながら考えた。 普通のサラリーマンみたいに休日出勤のある公務員って?
 真っ先に思いついたのは消防隊員だった。 それから救急隊員。 どちらも加藤の頼もしさと、そこはかとない優しさが、よく当てはまる職業に思えた。
 ただ、この二つに出張があるだろうか? 出向か研修はあるかもしれないが。
 他は、もっと実情を知らないからよくわからなかった。 判事とかはどうなんだろう。 裁判官は高いところにいるから、休みはきっちり取りそうな雰囲気だ。 でも判例や何かの下調べは大変そうだし、加藤の若さならまだ新人クラスだろうから、調査旅行に行かされる可能性ありだ。
 もしかしたら警官? という疑問が頭をかすめたが、藍音は打ち消した。 晶は違う、と強く思った。 彼女の持つ警察官のイメージと加藤晶は、だいぶ異なっていた。











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