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 その11 待ち合わせ



 コーヒーのチェーン店でのバイトを終えて一度家に帰り、それから藍音が駅に向かったのは、十一時を三十分ほど過ぎた頃だった。


 府中市は活気のある町だ。 駅の南口には大型ショッピングセンターやデパートが立ち並ぶ一方、狭い道幅の商店街にも客足が絶えない。
 昔から武蔵の国の中心部で、由緒ある神社仏閣が存在感を誇ると同時に、大企業の研究所や工場が多く、仕事先がたくさんある点で恵まれている。
 その上、大きな公園がいくつかあり、多摩川も近くを流れているという自然環境も手伝って、都で一番、住民の満足度の高い地域だった。


 駅には、ペデストリアン・デッキと呼ばれる綺麗な屋根無し通路がある。 藍音が正午十分前に着くと、加藤はもう来ていて、白い床を軽い足取りで近づいてきた。
「立派。 時間厳守だ」
「加藤さんも」
 藍音が笑って言うと、加藤はきっぱりと言った。
「男は待たせちゃいけない」
 やっぱり堅い人なんだ。
 藍音の笑顔が柔らかくなった。 芯のしっかりした人はいい。
 まあ、もしかしたら頑固者かもしれないけど。


 加藤は、行く先もちゃんと決めていた。
「和食の店で、日替わりランチがボリュームあっていいんだ。 もし気に入らなかったら、丼物や寿司もあるから」
「あ、そのお店知ってるかも」
「いい?」
 藍音はうんうんと頷いた。 味はおいしいし、変に気取ってないし、食べやすい店なのだ。
「たくさん料理が出てきて、千円しないでしょ?」
「そうそう」
「加藤さん、よく行く?」
「ときどきは」
「うちもたまに」
「店ですれ違ったこと、あるかな」
 藍音は考えてみた。 加藤はいわゆる美男ではないが、魅力的な顔立ちをしている。 ジョギングする道以外のところで会ったら、たぶん気づくはずだった。
「そんなにしょっちゅうは行かない、ていうか、行けないから。 外食の食費は六百円以下、月一万円以内が限度」
「食べ盛りなのにな」
 加藤は妙なふうに同情した。 いや違う、と藍音は心の中で突っ込みを入れた。 食欲満開なのは中学・高校のときだ。 それに今の女の子は、その時期でもあまり食べない。








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