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ゴージャスなことに、この家には、全館冷暖房と部屋ごと調節できるスイッチと、両方あるらしかった。
真路は、暑さの残る廊下に出て、絵津を広々としたキッチンへ連れて行った。 スキップは、よく冷えた居間に置いたバスケットに入りこみ、気持ちよさそうに居眠りを始めていて、二人についてこなかった。
冷房の効いたキッチンには、ほっそりした小柄な中年女性がいた。 ラジオでシャンソンらしい歌を聞いて一緒に口ずさみながら、いい匂いのする肉の塊を作りつけのオーブンから出しているところだった。
飾りガラスのドアが開いたので、女性はびっくりして中腰の姿勢で固まった。
真路は、隠し切れない笑顔を浮かべて、その人に絵津を紹介した。
「海藤〔かいとう〕さん、俺の、えぇと、フィアンセの松山絵津」
言い終わったとたん、真路は額の生え際まで真っ赤になった。
海藤さんと呼ばれたハウスキーパーは、鍋つかみで鉄板を持ったまま、急いで立ち上がった。
「はあ……。 まあ、こんにちは。 かわいい人!」
真面目に感嘆されて、今度は絵津が赤くなる番だった。
絵津はすぐ、海藤さんを好きになった。 愛嬌があって、口数は多くない。 むしろ聞き上手だ。 見込まれて長年加賀谷家に通ってきているだけに、信頼の置ける雰囲気だった。
紹介の後、五分ほど当り障りのない話に費やしてから、もう昼食は済んだから俺らのことは気にしないで、と言い残して、真路は絵津の手を取り、二階に上がった。
彼の部屋を開けたところで、二人は自然に抱き合い、キスを交わした。
前とは、全然違った。
顔がようやく離れたとき、絵津は初めて、自分が無意識に真路の頭を抱え、髪をまさぐっていたのを知った。
こんなに夢中になったことは、生涯記憶になかった。
右腕でがっちりと絵津を抱き寄せたまま、真路は左手で壁のスイッチを探した。
ブーンというかすかな動作音が響く部屋に、二人はもつれるように入り、ドアを閉めた。
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