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木実は、くりくりした眼を絵津に向けた。 そして、かすかに微笑んでみせた。
もうこのぐらいで許してあげる? という眼差しだった。
絵津も、親友に柔らかい視線を投げた。 ちょっとはらはらしたが、木実のおかげで真路の気持ちがわかったし、告白の証人もできた。
自分が真路の『本当の恋人』なんだ、と知らされたのが信じられなくて、まだ胸がざわめいていた。 それでも次第に熱いものが心に満ちてきて、絵津は叫びたくなった。
――ありがとう、真路! 私を好きになってくれて!
もういいって思ってたけど、ただの強がりだった。 顔見たとたんにわかった。 なんかもう、爆発しそうなほど嬉しい!――
口にはできなかった。 息があきれるほど乱れて、うまく声が出せない。 代わりに絵津は、真路の手を探して、固く握りしめた。
木実が、自分の自転車を振り返って、ひょうきんに言った。
「あーあ、せっかく列作って手に入れたアイスが、融ける〜」
それから陽気な目くばせをした。
「ここで食べちゃう?」
「そだね」
絵津はやっと答えられたが、妙に上ずっていて、自分で笑いそうになった。
「なんか声が……」
「食べたら落ち着くよ」
身軽に走り戻って自転車を引いてくると、木実はストライプの紙袋から大きなシューアイスを三個出した。
「食べる?」
ニュッと突き出された剥き出しのアイスを、真路は反射的に掌で受けた。
「あ……、サンキュ」
アイスではなく、周りの張り詰めた空気が、ふわっと融けた。
自転車を引っ張って、三人はやおい橋を渡った。 どちらかというと木実と真路が街のことをあれこれしゃべっていて、絵津は言葉少なだった。
だが、真路の腕は、しっかりと絵津の胴に巻かれていた。 そして、絵津は角を曲がるたびに、真路の肩に顔をすり寄せた。
熱帯魚店のある角まで来て、三人は立ち止まった。
木実が、自然な口調で訊いた。
「どうする? うちまで来る? それとも、二人でゆっくり話せるところ行く?」
上気して頭がはっきりしなくなった絵津と真路は、ぼんやり顔を見合わせた。
「えーと」
「うち来なさいよ」
木実がませた口をきいた。
「うちの母さんは、半分絵津の母親代わりだから、会っとくといろいろ便利だよ」
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