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本心……? 私の、本心?
不意に火傷しそうなものが湧きあがってきて、鼻がツーンと痛くなった。
絵津の自転車が止まったのに気付いて、真路は言葉を切るのをやめた。
「海で声かけたのだって、祥子〔しょうこ〕が言ったからなんだ。 あの子が見てるよ、あれぜったい真路のこと見てるって。 だから、嘘だろうって思いながら確かめに行った」
浜辺に溜まって談笑していた若者たちを、絵津は目の前に思い浮かべた。 彼らは、とても世慣れて見えた。 真夏の光に取り囲まれて、黄金色に輝いていた……。
絵津は半分振り返ったが、真路の顔をまともに見る勇気がなかった。 それで、ほとんど囁き声で尋ねた。
「八王子……出てかないほうが、よかった……?」
ほとんど間をおかずに、真路は答えた。 ひどく寂しげな、力のない声で。
「うん」
絵津の手が、自転車から離れた。
支えを失ったアルミの車体が、ガチャンと路面にぶつかった。 だが絵津は、頭に血の上った状態で、何の音も耳に入らなかった。
振り向くと、さっき残していった位置に、真路がいた。 絵津は彼の目を探し、勇気をふりしぼって見つめた。 そして、悟った。
この顔だ。 熱と不安と憧れが、かげろうのように揺らいでいる、この表情。
今まで、大崎の顔にしか見たことのない、特別な気持ちの表れだった。
愛されているんだ、と、絵津は初めて実感した。 そのとたん、全身が燃えて熱くなり、蝋燭のように融けはじめた。
頼りなくなった足を踏みしめて、絵津は真路に歩み寄った。
すぐ前に行くと、右手で彼の腕に触れ、なにか言おうとしたが、声にならなかった。
もう限界だ、と絵津は悟った。
母や、静や大崎に気を遣い、波風の立たない人生を平和に送ろうと思ったけど、そっちのほうが幸せになるかもしれないけど、やっぱり無理だ。
絵津は無言で首を垂れ、額を真路の肩にくっつけて、瞼を閉じた。
そのまま、時が過ぎた。
永遠に思えたが、たぶん三十秒くらいだったろう。
真路の腕が上がり、絵津の背中を抱いた。
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