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二日間、絵津は迷っていた。
静と母が見守ってくれて、大崎という心温まる存在があり、自由時間をたっぷり持てる現在の暮らしに、絵津はほぼ満足していた。 怒りと不安におびえながら真路と逃げた一年前のことは、思い出すのも辛かった。
だが、心のどこかで、何かがざわめいていた。 実の父とわかっている人を、このまま放っておいていいのだろうか。
真路に彼女ができていれば、むしろ楽だろう、と絵津は気付いた。 『義理の息子』とのしがらみを気にせずに、父親と会えるかもしれない。
加賀谷雄策に何かしてほしいわけではなかった。 ただ、彼がずっと絵津を気にかけていたのなら、一度ゆっくり話し合い、いくらかでも心を通わせたかった。
何といっても、親子なのだから。
ためしに、絵津は木実をせっついて、女性記者の米崎江美に訊いてもらった。 今でも真路の情報を少しは仕入れているかと期待したのだ。
思ったとおり、江美は広角情報網の端で、ちゃんと真路をマークしていた。 コミュニティー紙の入っているビル一階の喫茶室で木実が聞いたところによると、真路は今年に入って、すでに三人の女子と別れているそうだった。
「付き合ってるんじゃなく、別れてるの?」
信じられなくて絵津が訊くと、木実はしょっぱいような顔をした。
「別れる時のほうが目立つんじゃないの? 必ず相手のほうがしがみつくんだって。 小さい町だからちょっとした噂になってて、ドライアイスなんて仇名がついたらしい。 なんかぴったりだね」
感心している場合じゃない。 絵津は心臓に引きつれたような痛みを感じた。
「やだ……私がひどいこと言ったから、他の女の子に仕返ししてるんじゃないよね」
「そう思う?」
「プライドが傷ついたんだ、きっと。 あんなこと言っちゃだめだった。 親切にしてくれたのに」
思いもよらない結果になって、絵津はうろたえ、落ち着きを失った。
絵津の目には、真路はいつも自信に満ちているように見えた。 余裕があって、実年齢より大人な感じに。
だが、実は彼も傷つきやすい不安定な普通の若者だったとしたら……。
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