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「絵津に聞いて。 いいと言うと思うけど」
大人二人に見つめられて、絵津はすぐ頷いた。
「うん。 お母さんも来る?」
とたんに将美は、嬉しいような切ないような、ぎこちない表情を浮かべた。
「行くよ。 もしいいなら」
「もちろんいいよ」
絵津は、さらっと応じた。
文化祭の当日は、薄曇の天気だった。
絵津は、伝統の『タヌキ市』と称するバザーで午前中に売り子をやった後は暇になったので、昼前に正門近くのウェルカム・ゲートに行き、母や静たちの到着を待った。
五分ほどぶらぶらして退屈になったため、一年生が出している屋台で手作りクッキーの小袋を買った。 すると、中にかわいらしいおみくじが入っていた。
「中吉。 恋のラッキー・カラーは金色」
あたりさわりのないことが書いてある。 絵津は微笑みながら花模様の紙を折りたたんで、ポケットにしまった。
そのとき、頬に熱いものを感じた。
はっとして、絵津は肩をひねり、正門の方角に目をやった。
三々五々、人が入ってくる。 小さな子供連れや、赤ん坊を抱いたカップルもいた。 たぶん卒業生だろう。
門の外から、学園祭の様子を眺めている人たちも何人かいた。 その中に、一人見覚えのある顔があった。
――たしか、あの男の子は、真路のサーフィン仲間だ――
前髪をピンとはね上げたその顔は、明らかに絵津のほうに向いていた。
目が合うと、彼は慌てるふうもなく眉を上げて、すっと門から離れていった。 熱く感じたのは、彼の視線ではなかった。 では、いったい誰の……
もしかしたら、あの子は真路と連れ立って歩いていたのかもしれない。
そう思いついた瞬間、絵津は門に駆け寄った。
鉄柵に手をかけて、彼の立ち去った方角を目で探した。 だが、その姿はもうどこにも見えなかった。
なおも首を伸ばしていると、ポンと肩を叩かれた。 息を吸い込んで振り向いた絵津は、静の陽気な笑顔を見て、全身の力が抜けた感じになった。
「はい到着。 お迎えありがとうね」
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