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絵津が静のマンションに戻ったのを知って、将美が電話をかけてきた。
絵津にではなく、静の携帯に。
店に行く前の空き時間、自分の寝室で将美としばらく話した後、静はリビングに出てきて、絵津に告げた。
「絵津ちゃん、今まで通りよ。 お母さんたち、家賃払うって。 いいって言ったんだけどね、甘えちゃ悪いからってさ。
それと、今度の日曜、お母さんに会いに行ってあげない?」
あげない? と言われて、絵津はとまどった。
「日曜?」
「そう、ええと、十三日だよね。 駅前のTビルで会わないかって」
「ここに来ればいいのに」
思わず絵津が呟くと、静はニヤッと笑った。
「気が咎めてるんじゃないの? ドア開けてくれなかったらどうしよう、なんて心配してるのと違う? 絵津ちゃんが逃げ出す前の脅しは、ちょっとひどかったから」
「もうわかってます、なんであんなこと言ったか」
「え?」
「なぜ真路と付き合っちゃいけないって言ったか、聞きました」
絵津は、胸のつっかえを晴らすように、平らな声で打ち明けた。
「お母さんは、むかし真路のお父さんとケンカして別れたみたいなんです。 だから、息子も嫌いみたいで」
これでは真実の半分だが、絵津は出生の秘密まで話すつもりはなかった。
静は、眼をくるんとさせて頷いた。
「ああ、そういうことあるかもね。 ロミオとジュリエットみたいじゃない?」
「そんな……」
「でも真路って子は、ロミオじゃなかったんだ」
絵津の胸が、冷たくしびれた。
「ちがいますよ。 確かに彼はモテ系だけど、私に本気とか、そういうのじゃなかったから」
静の表情が、わずかに変化した。 瞳が、いぶかしげに見つめてきた。
「絵津ちゃんは、その子に本気だったの?」
一房落ちてきた額の髪を掻きあげながら、絵津は自分に問いかけた。
どういう気持ちだったんだろう。 あこがれか、それとも大人になるまで繋がる深い愛情だったのか。
「わからないです」
少し考えて、絵津は正直に答えた。
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