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ドアを開けると、すぐ外側に大崎が立っていた。 彼は、絵津の両手にぶら下がった大きなバッグを見て、声を小さくした。
「帰れるの?」
「うん」
絵津は言葉少なに答えた。 すると、大崎は腕を伸ばしてバッグを受け取ろうとした。
「あ、いいですよ。 自分で持てるから」
「手ぶらじゃ、僕がかっこ悪い」
そう言うと、大崎はひらめくような微笑を見せて荷物を渡させた。
通りにはすでに街灯がつき、音楽がそこここから聞こえ、宵のざわめきに満ちていた。
大崎は、車を近くのパーキングにきちんと入れてあった。 青いレンタカーを探して荷物を載せ、絵津のために助手席のドアを開いた後、大崎は微笑んだ。
「さあ、どうぞ」
わずかな間、絵津は大崎の笑顔に見とれた。
照れと嬉しさの混じった、内面から光が透けるような微笑――この輝きが、本当の恋とはどういうものか、絵津に教えてくれたのだった。
彼に会わなかったら、気付かないままでいた。 真路の表情に喜びが乏しいこと、長く視線を絵津に留めないことに。
でも、真路を見るときの私の顔は、どんなだったんだろう。
そう思ったとたん、それまでまったく乾いていた眼が不意に曇った。 絵津は三回まばたきして涙を引っ込め、ぎこちなく大崎に微笑を返して、車に乗った。
なめらかにUターンしてから、車は駅前通りを走った。 マンションの前を通過したとき、絵津は横を見なかった。 大崎が何度かせわしなくバックミラーに目をやっているのを不思議に思ったが、振り向いて確かめようともしなかった。
気分が目一杯落ち込んでいて、他のことに構う余裕なんか、一ミリもなかったのだ。
帰宅ラッシュと重なって、二回渋滞に巻き込まれたものの、二人はそれほど疲れずに木更津へ到着した。
車を返してから、大崎は静の部屋まで荷物を運んでくれた。
「すいません、迷惑かけて」
「とんでもない。 元気出た?」
「少し」
「だんだん落ち着くよ。 元の生活に戻れば」
そう優しく言った後、大崎はちょっとためらってから、手を差し出した。
「がんばれ」
絵津は、そっとその手を握った。 すぐにもう片方の手が、絵津の細い手を両側から包み込んだ。
「そのうち、様子見に来ていいかな?」
絵津が顔を上げると、大崎はうっすらと顔を赤くしていた。
「なんか、心配で」
「もう逃げないですよ」
「いや、わかってるけど」
手を握り合ったまま、二人はなんだか間が持たなくなり、お互いにプッと吹き出してしまった。
「来てもらったら、静さんも喜びます」
「じゃ、また」
「はい」
名残惜しそうに、大崎はゆっくり指を離した。
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