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へっ?
絵津は、思わず笑いそうになった。
いったい何言ってるの?
何ぶっ飛んだ発想してるの。 ありっこないじゃない。 どうかしてるよ、真路。
真路が不意に歩み寄ってきた。 絵津は思わず身を固くしたが、彼は横をすり抜けてドアのほうへ行き、電気をつけた。
不意に目が痛くなるほど明るくなって初めて、絵津は部屋がどんなに暗かったか悟った。
テーブルに置いてあった携帯を取ると、真路は写真を選んで絵津の目の前に突き出した。
「親父の顔。 眼鏡取ったところ。 これ見てどう思う?」
一瞬目を背けた。 見たくなかった。
だが、さっき逃げないと言ったのを思い出した。 絵津は肩を怒らせ、鋭い視線を小さな画面に据えた。
自分そっくりの眼差しが見返していた。
こんなに似た目つきだとは、想像もできなかった。 長い睫毛に、特徴のある上瞼のライン、少し開き気味の位置まで、絵津と同じだった。
知らない間に、口が開いていたらしい。 真路は電話をソファーに放り出し、乾いた声で言った。
「あっけ? 口がポカンってなってるよ」
「こんなの……偶然よ」
「ちがうね」
容赦なく、真路は断言した。
「俺なんか、小ちゃいときから知ってたんだ。 母さんがもう一人子供ほしくて、親父とケンカ始めちゃって、できないのはあんたのせいだって言ったんだよ。
そしたら親父が、俺にはちゃんといるって。 売り言葉に買い言葉でさ」
そのまま真路は、ソファーにドシンと坐った。 横にあった携帯が、跳ね上がって落ちそうになった。
乱暴に電話を受け止めながら、真路は続けた。
「絵津のお母さん、二股だったんだって。 それがわかって、親父は怒って別れた。 で、そっちはそっちで結婚して、親父も後で母さんと一緒になった。
絵津が三つのとき、街で見て、心臓が変になったって、親父のやつ」
声からとげとげしさが薄れた。
「すごく気が合ってたんだよ、うちの両親。 結婚前にできてた子だし、すぐ仲直りした。
そんとき、母さんが、親父に同情したようなこと、ちょっと言ってたんだ。 ほんとの娘を手元で育てたかったでしょうね、かなんか」
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