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ストライプのカッターシャツにきちんとネクタイを締めた大崎の姿は、どこか清々しかった。 彼が目に入ったとたん、絵津は予想もしなかったことに、懐かしい思いに駆られた。
「大崎さん!」
短い間に、大崎の表情が移り変わった。 初めは緊張した様子だったのが、ほっとしたように口元をゆるめ、それからまた引き締めた。
絵津は、小走りで彼に近づいた。
「どうしてここに?」
「君を待ってた」
大崎は、前と変わらない声で言った。 できるだけ自然に振舞おうとしているらしかった。
「ちょっと坐って話さないか?」
絵津はゆっくり頷くと、大崎と並んでベンチに腰かけた。
長い脚を引き、高くなった膝に片手を置いて、大崎は淡々と口を切った。
「静さんが君のお母さんに怒ってた」
びっくりして、絵津は大崎の横顔をまじまじと見つめた。
「むちゃくちゃだよね。 逃げ出した家に戻そうとするなんて。 もうあんなことさせない、君の部屋に鍵をつけるってお母さんは言ってたけど、そんなので防げるとは思えない」
そこで、大崎はパッと顔を上げ、絵津を見返した。 たじろぎたくなるほどまっすぐな視線だった。
「静さんのところへ戻ろう。 家賃は気にすることないよ。 店の子をただで泊めたりするんだから」
「でも……」
大崎は絵津のためらいを打ち消すように、話し続けた。
「もう新学期始まってるし。 お母さんは、学費は払うと静さんに約束してたよ。
そういえば僕も、夏休みの後は学校行きたくないな〜と毎年思ったけどね。 君もそう?」
小さな微笑みを向けられて、絵津の心は突然ふくらみ、熱くなった。
この人は、私を心配してくれている。 わざわざここまで迎えに来てくれて、それなのに叱らないし、お説教もしない。
絵津は、一回ギュッと下唇を噛みしめて決意を固めた。
「学校へは、行きたい」
膝を掴んでいた大崎の指から、余分な力が抜けた。 浮かべていた微笑が、日食の終わった太陽のように明るくなった。
「じゃ、木更津へ帰る?」
絵津の息が速まった。 戻ってしまったら、真路を裏切ることになるんだろうか。
でも、とりあえず普段の生活に帰りたい。 ぶらぶらしているのは性に合わなかった。 大崎が作ってくれたこのチャンスを逃せば、もう元へは戻れないのだ。
「帰ります。 静さんには、卒業してから働いてお返しします」
「いいって、そんなに固く考えなくて。 でも、真面目でそういうの好きだけど」
好き、という言葉が、微妙な重みを持って二人の間にたちこめた。
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