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表紙

火の雫  66
 翌日から三日間、絵津はほとんどべったり真路と共にいた。
 彼は、ごく自然にふるまっていた。 思ったより健康的なライフスタイルで、朝は七時までに起き、トーストを野菜ジュースで健康な胃に流し込んでいた。
 彼は、パンをカリカリに焼くのが好きだった。
 絵津はごはん派だったから、初めは戸惑ったが、二日目にはもう慣れた。 真路が焼いてくれるので、楽だったせいもある。


 朝食の後は、昼までお互いに好きなことをして過ごした。 絵津は荷物の整理をし、いちおう借りた布団を押し入れにしまった。
 真路は、いろんなことをやっていた。 ヘッドホンで音楽を聴きながら、BLDのレベル作りをしたり、友達にメールを打ったり、絵津に場所を空けるためにスニーカーの古いのを捨てたり。


 昼は、外へ食べに行った。
 ついでに洗濯物をバッグ一杯持っていくこともあるし、新しい棚や服・下着などを買いに、ぶらっと商店街を歩くこともあった。


 夕方には、夜に食べる弁当を買って帰った。 真路は、ポットで湯を沸かすぐらいのことしかやらなかったらしく、キッチンは使った形跡なしで、流しがカラカラに乾いていた。 食材の買い置きは、いっさい無し。
 三日過ぎて、絵津は一つだけ、真路に宣言した。
「晩御飯は作る。 チャーハンとか焼肉とか簡単なのだけど、お母さんの留守なときはいつも作ってたから」
「ありがてー。 頼むぜ、アネさん」
 真路は、あまり当てにしていないような顔で答えた。




 九月になった。
 間もなく高校の新学期が始まる。 これまで無欠席だった絵津は、始業式の日が来ると背中がむずむずするような罪悪感にさいなまれた。
「黙って休んじゃって、いいかなぁ」
「よかないけど、すぐ退学ってことにはならないと思うよ」
 それから真路は、怒った口調で付け加えた。
「悪いのは絵津じゃねーし」
 ポーンとベッドへ仰向けに引っくり返って、真路は大声で続けた。
「自分で下宿させといて、帰ってこなきゃ家賃払わない、学費払わないって、それが親の言うことかよ!」









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