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一生……?
絵津は不意に、体が半分に分かれたような違和感を味わった。
上半身、特に胸と頭がカッと熱くなった。
これは、この言葉は、結婚の申し込みだろうか。 いつまでも一緒にいたいというのは……。
違う、一緒にいたいんじゃない、いることになるだろうと言ってる。 もう決めたみたいに。
絵津は、黙って足元を見下ろした。 膝から下が冷たい。 爪先なんか、夏とは思えないほど冷えて、感覚がなくなりかけていた。
冷房の効いた店にいたせいだ。 絵津はそう思った。 思い込みたかった。
視線を落としたまま、絵津は体を少し離して手をつなごうとしている真路を、斜交〔はすか〕いに見上げた。
「ずっと一緒?」
真路は、目じりに皺を寄せて微笑んだ。
「ああ。いいだろ?」
その目が本当に笑っていたらね、と、絵津は心の中で呟いた。
「いいけど」
少し間を開けて、ずっと悩んでいた不安を口にした。
「お父さん、怒らない? 断わらないで女の子と住んで」
真路の表情は、まるで変わらなかった。
「怒らないよ。 安心しなって。 ただ」
「ただ、なに?」
「絵津は高ニだから、十七か八だろ?」
「十七。 後一ヶ月は」
「成人するまで、二年ちょっとあるわけだ。 その間、結婚届出すには親の承諾書が要るんで、絵津のお母上をどうするかだな」
えーっ、そこまで考えてるの?
絵津は、つむじ風にさらわれた気分になった。
結婚という大事業を具体的に考えたことはまったくなかった。 再婚の夫に気を遣う母を見ていて、憧れなんかとうの昔に吹き飛んでしまった。
絵津が夢みているとすれば、それは心の繋がりだった。 好きになった相手が、同じぐらいとは言わない、半分でもいいから、本気で大事に思ってくれたら、それだけでよかった。
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