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いつも通り、静は四時前に目を覚まし、仕事前のセットに出かけた。
絵津も、起きてきた静といつものように挨拶を交わし、手を振って送り出した。 母との揉め事は口にしなかった。 話したければ、将美が連絡してくるはずだ。
それから六時までが、妙に長かった。 絵津は、もう一度部屋を点検して、忘れ物がないか確認した。 それでもまだ時間が余ったので、携帯でナンクロをやったが、全然集中できなかった。
やっとチャイムが鳴ったときには、もう夜中かと思うほど待ちくたびれていた。
部屋に入ってきた真路は、多くを語らずに、すぐ荷物を持ち上げた。
「二つだけ?」
「そう。 こっちのショルダーと」
肩にかけたバッグを示すと、真路は目をパチパチさせた。
「後は、置いてくのか?」
「母さんが引き取るでしょ。 どうせあの人のお金で買ったものなんだから」
投げやりな口調に、真路は動きを止めた。 何か言いたそうに口が開いたが、結局止めて、部屋をぐるっと見渡した。
「戸締まりは?」
「した」
「後は玄関閉めるだけだな。 鍵は、持ってく?」
「いやー、もう来ないと思う」
「じゃ、管理人に渡しときな。 俺、先に荷物運ぶから」
絵津が助手席に収まると、真路はすぐ発車させた。
灯りが幻想的な夜のアクアラインを通り、羽田空港を右に見て川崎区へ入った。
それからは、南武線に沿うように、しばらく走った。 車内には、FMの音楽が小さく流れていた。
「なんか言いなよ」
しばらく会話が途切れた後、真路が不意に要求した。
「え?」
「黙って運転してると、眠くなる」
「ああ……」
絵津は急いで考えた。 そういえば、あまり共通な話題はないかもしれない。
「さっき言いかけてたでしょう? 海に行く話とか」
「あれ、やめた」
あっさりと、真路は答えた。
「八王子へ戻っちゃったら、海は遠いから」
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