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真路に構ってもらうのは楽しかった。
コンドーム持ち歩いてるなんて、どんだけ遊び人なんだ、とは口に出さなかった。 いろんな心配をなくすための、立派なエチケットだ。
絵津の髪がすっかり乾くと、真路は自分の頭をささっとブラシでとかして、数分の熱風で簡単に整えた。
その間に、絵津は服を着た。 真路は裸のまま、平気で部屋を行ったり来たりしていた。 風呂上りで服の束縛から逃げ回る小さな男の子のように。
「今度うち来る?」
不意に真路が立ち止まって尋ねた。 つながりのない問いに、絵津は少したじろいて眉を上げた。
「ああ……。 え?」
真路は、顔を寄せて眼を覗き込んだ。
「え? なんで驚くの?」
……なんでだろう。 さっき彼と抱き合ったばかりだというのに、絵津の心はまだ半分他人行儀だった。
何かが違う。 そんな気持ちが、心の隅にわだかまっていた。 彼と自分と、どちらに原因があるのかわからない。 ただ、手放しで彼の心に踏み込んでいけないのは確かだった。
困って、絵津はぎこちない微笑を浮かべた。
「お宅、立派すぎて」
「おたくって」
真路は首を振った。
「俺んちに圧倒されてんの? 正確にいうと、俺んちじゃなくて親父んちだけど。 みんなどんどん来てるよ」
「女の子も?」
自分の声を耳で聞いて、絵津は唇を噛みそうになった。 しまった、焼き餅を焼いているような態度は、絶対見せないと決めていたのに。
真路は、特に反応を見せず、あっさりと答えた。
「来るよ、ふつうに」
それから、ようやくチラッと絵津に視線をくれた。
「みんなでビャーッって押しかけてくんの。 女と二人きりは、ないな。 たるいから。 何話したらいいかわかんなくて」
蟹の泡のように、声に愉快そうな響きが混じった。
「絵津は例外だ。 黙ってても楽しい」
なんか仄めかされている気がして、絵津は自然に赤くなった。
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