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デスクに並べた小鳥の時計に目をやると、十一時を回っていた。
絵津は、真路の頬に唇を当ててから、彼の肩に手を置いて立ち上がった。
「もうじき静さんが起きてくる」
すぐに、真路も真顔になって体を起こした。
「会って挨拶したいな」
「それは、もうちょっとここに慣れてから」
答えながらも、絵津は嬉しくなった。 二人の交際を、真路は真面目に考えている。 そのことがわかって、ほっとした気持ちだった。
絵津は、マンションのエントランスまで真路を送っていった。
戸口の脇に置かれた観葉植物の寄せ植え鉢の横で、真路は一度立ち止まった。
「メールするから」
「うん、私も」
「サーフィンしたことある?」
「ない」
「だいたい、泳げるっけ?」
「泳げるよー」
絵津が笑うと、真路は長い指で彼女の頬をさすって、呟くように言った。
「その笑顔、最高」
はっとして、絵津は笑みを引っ込めた。 すると、人一倍大きな眼が、謎めいた夜のように見えた。
真路は照れて、ニッと笑い、指を離した。
「やば。 ナンパやろーみたいな文句」
「車で来たの?」
微妙な空気をほぐそうとして、絵津は尋ねた。 真路は横に首を振った。
「電車」
「駅まで送る」
「いいよ、絵津疲れてるんだから」
「あ、昨日スキップ連れてきてくれてありがとう」
「一回り大きくなってただろ」
「うん、かわいい、すごく」
一呼吸置いて、絵津は真路の手を取った。
「今日も、わざわざ来てくれて」
「いいの、来たくて来たんだから」
途中から真路が言葉を引き受けた。 そして、取られた手をぎゅっと握り返した。
「帰ったら電話する」
「うん」
「じゃな」
絵津がうなずくと、真路は少し体を前に傾け、髪の分け目にキスしてから、手を離して歩き出した。
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