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こんなふうにキスされるのは、初めてだった。
どんなふうにでも、真路以外の男の子に本物のキスをさせたことはないのだが。
初めてだから、どう息をつないでいいかわからず、途中で真路の下唇を吸いこみそうになった。
彼は、いったん口を離し、さくら色になった絵津に頬ずりした。
「鼻で呼吸してな。 普通に」
「こんなの普通じゃないもの」
絵津が言うと、真路は微笑した。
「海で素潜りしてるみたいな顔になってる」
「素潜りのほうが楽だ」
真路は本格的に笑い出した。 そして、腕の中で抱き直すと、眼の中を覗きこんだ。
「嫌か?」
「嫌じゃないよ。 ただ」
「ただ、何?」
「慣れてないだけ」
「すばらしい」
真路は真顔に戻った。 眼の輝きが一段と強く変わり、絵津はまともに見つめられなくなった。
「俺だけなんだ」
体がむずむずするような感覚に襲われて、絵津は真路の膝から降り、立ち上がろうとした。 でも、あっさり引き戻された。
彼の腕は、そう太くないが筋金入りだった。
「なあ」
「なに?」
「なんで急に下宿したの?」
訊かれると思った。 同じ市内に自宅があるのだから、誰だって不審に思う。
知らない間に、絵津はうつむき加減になった。
「義理のお父さんが……」
言葉が途切れたが、それだけで真路には理解できたようだった。
体に回った腕に、瞬間強い力が加わった。
次いで感触が柔らかくなり、いっそう深く胸に抱き寄せられた。
「俺は襲ったりしないよ」
「そうなの?」
やはり、彼はばっちり理解していた。
「しないのが普通だ」
「うん」
「でも、絵津がいいなら」
また唇が合った。 絵津は真路の胸に両手を置いていた。 抱きつくほどの親近感はない。 だが、さっきよりずっとキスは上手くなった。
ゆっくり唇が離れたとき、絵津は低く答えた。
「まだ駄目」
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