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静は銀色の鍵を絵津に渡し、使い方を教えてくれた。 この分譲マンションはオートロック方式で、正面玄関と個宅はその鍵で開け閉めするのだという。
「郵便ポストと宅配ボックスは、玄関を出たエントランスにあるから、鍵開けて取ってね。 そっちの暗証番号は……」
絵津は頷きながらメモした。 松山の家は一戸建てなので、マンションに住むのは初めてだった。
「鍵忘れて出ちゃったら悲惨だから、気をつけて」
「はい」
緊張していた絵津が、そこでようやく微笑したのを見て、静は目を大きくした。
「あれ。 笑うとなんか、雰囲気変わるね。 百合の花が開いたみたいになる。 やっぱり美人の子は美人だわ」
「やめてよ。 静さんみたいなモノホンの美人に言われると嘘っぽい」
将美が抑揚のない声で呟いたため、座が一瞬白けた。
四時過ぎ、大人二人は絵津を部屋に置いて、連れ立って出ていった。
ドアまで見送った後、絵津はベランダに通じるガラス戸に歩み寄りながら、携帯を引っ張り出して開いた。
通じたとたんに、真路の声が聞こえた。 明るく、活気にあふれた声。
「絵津?」
「そう」
「もう引越した?」
「うん。 きれいな部屋だった」
スモークブルーの壁と白い家具で統一した七畳間を見渡して、絵津は報告した。
「ふうん。 で、場所は?」
番地を言うと、カサカサという紙の音が返ってきた。 どうやら地図をめくっているらしかった。
「そこ、高級なんじゃね? いいとこそうだな」
「母さんの友達の家。 クラブのママしてるの」
「はあ。 明日見に行こう」
えっ? 気持ちの整理がつかないうちに、またしても真路が直線攻撃してきた。
「何時頃が都合いい? 俺はいつでもいいけど」
「えーと、午前中は引越し荷物が届くから」
「ほんと? 手伝うよ!」
信じられないことに、真路の声が一段とボリュームアップした。
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