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奈々歌と木実母子が心配したように、夕食が済んで九時近くになっても、母の将美から連絡はなかった。
仕方なく、絵津はそれから半時間ほどして、廊下に出て携帯を入れた。
呼び出し音が五回響いた後で、母が出た。 むっつりした声音だった。
「絵津?」
「そう」
喉がかすれた。 咳払いをしてから、もう一度言い直した。
「そうだけど」
「今、木実ちゃんとこ?」
「うん」
「今晩泊めてくれるって?」
「うん」
「じゃ、そうしてもらって」
将美の声は、低かったが穏やかではなく、奥でじわじわと盛り上がるような苛立ちが感じられた。
「松山がね、もうあんたと同じ家で暮らしたくないっていうのよ」
絵津は、冷たく汗ばんだ手で電話を持ち直した。 カッと頭に血が上り、激しく言い返したくなった。
同じ家で暮らしたくないのは、もともと暮らしたくなかったのは、こっちのほうだ!
少しだけ間を空けて、将美は更に固い声を出した。
「高校の近くに部屋を借りたらどうかって言うんだけどね、私は違う考えなの。
昔、バーに勤めてたときの仲間が、木更津でクラブやってるの。 三部屋か四部屋ある大きなマンションに住んでるから、五万も出せば泊めてくれると思う」
とりあえず、ほっとした。 追い出されるようなヒヤッとした寒さが首筋を走ったが、松山と離れられるなら、山の中のボロ小屋でもいいと思った。
「それでいい?」
気がつくと、母が念を押していた。 絵津は急いで頷き、それでは電話で伝わらないと悟って、早口で答えた。
「いいよ」
リビングへ戻ると、木実たちがWiiのディスクを出してきて本体に差し込んでいた。
「ちょっと遊ぼう。 これダイエットになるんだよ。 やったことある?」
「ない。 新しく買ったの?」
「そう。 絵津が来たら一緒にやろうと思ってさ」
奈々歌も交えてワーワー騒いでいるうちに、絵津は次第に、胸を噛んでいた孤独感を忘れた。
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