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その夕方、さっそく真路から電話がかかってきた。 器械を通して聞くと、彼の声は一段と澄んでいて、パチパチと弾けそうだった。
「絵津? 俺、真路だけど」
「あ……うん」
一瞬、沈黙が入った。 その緊張感が怖くて、二人は同時にしゃべり出した。
「明日、うち来ない?」
「サーフィン楽しかった?」
あ、とたじろいで、また間が空いた。
やがて真路の低く笑う声が聞こえた。
「なんかタイミング合わないな、俺たち」
「うん」
「あのさ、うちへ遊びに来ないかなと思って」
「スキップに会いに?」
「それもあるし」
声が明るくなめらかになった。
「ちょっと話したいことあるし」
「なに?」
「それは、来てのお楽しみ」
「いいこと?」
「たぶん」
「じゃ、行く」
「よっしゃ」
真路は満足そうに言った。
絵津は、定宿にしている旅館『松ヶ枝』の、海を見下ろす窓辺に立っていた。
凪ぎの海だった。 波はほとんどなく、オレンジとクリームの混じった反射光が、水面をプリズム光線のように覆っていた。
カチッと携帯を折って、窓枠に置こうとしたとき、背後で何かが動くのが見えた。 絵津はシャーベットブルーの携帯を握ったまま、振り向いた。
絵津一人だった部屋に、松山が入ってくるところだった。 いつもは、ただいま、とか、帰ったよ、と声をかけるのに、その日は違っていた。 四角い顔に普段の笑みはなく、浅黒い肌がそそけ立って見えた。
松山は、後ろ手にドアを閉めた。 カチッという音が、妙な鮮やかさで室内に響いた。
「サーフィンって言ってたよな、今?」
口調まで変だった。 押しかぶせるような横柄な感じだ。 絵津は本能的に身構えた。
「電話、聞いてた?」
「いけないか? まだ未成年なんだ。 親の監督が必要な年だ」
「友達からかかってきたの。 それだけ」
「友達?」
松山の唇が曲がった。
「道の真ん中でキスしてた奴が?」
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