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真路は、去年より少しだけ長く髪を伸ばしていた。 海から西風が吹くたびに、柔らかめの頭髪がふわりと揺れ動く。 相変わらず輝きに満ちた力強い眼は健在で、じっと惜しみなく見つめられると、絵津は思わず視線をずらして、艶やかな光を反射している露わな胸に置いた。
それも、気がつくとと恥ずかしかった。 どこを見ればいいんだ。 絵津はまぶしくて目をしばたたかせた。
真路は、五歩で絵津に追いついた。
「今年も帰って来たんだ」
「うん」
「去年見かけたよ」
驚いて、絵津は立ち止まったまま、左にいる背の高い若者を見上げた。 真路は、六年前に並んだときに比べて、確実に二十センチは伸びていた。 それに、遠くから見た感じよりずっと肩幅が広かった。
「どこで?」
真珠のような歯がこぼれた。 さすが歯医者の子だ。
「やおい橋んとこ。 大人三人と友達みたいな子と歩いてた」
「ああ、たぶん木実の親たちと食事に行ったときだ」
「毎年帰ってきてるんなら、俺んちにも来いよ」
真路が、サラッと言った。 当たり前のことみたいに。
絵津は、一度口を開けて、また閉じた。
最初言おうとした言葉を止めて、毎年気になっていたことを訊いた。
「スキップ元気?」
真路の笑顔が大きくなった。
「元気だよ。 絵津が会ったときは……えーと、アイツがうちに来て半年だったから、今六歳半か。 前ほど飛び歩かなくなったけど、スタミナは凄い」
絵津は、小さく唇を湿らせた。 胸の下の辺りに、じわっと温かみが広がった。
六年……真路も正確に覚えてる。 私がここを去ってからの年月を。
「ねえ、加賀谷さーん」
不意に高い声がして、絵津は目を上げた。
同じように、真路も来た方角を振り返った。
セミビキニの女子が、海の家の角まで来て、手を振っている。 均整の取れた見事なボディだった。
「加賀谷さん、そろそろ千歳に行くって。 もう岸野さんが車出すから」
「あ、わかった」
気乗りしない様子で、真路が応じると、娘は形のいいヒップを見せて、ばたばたと走り戻っていった。 絵津にはまったく目もくれずに。
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