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横向きで見ると首が痛くなるんだと言って、真路は絵津と同じソファーに席を移した。
触れ合いそうな位置で二人はアニメを見続けた。 実際に、途中から寄り添い合っていた。 どうしてそうなったのかよくわからない。 真路と膝がくっついていても、絵津はもう不安や気詰まりを感じなかった。
映画が終わると、外は薄暮になっていた。 もう帰る、と絵津が言うと、真路は家まで送ると言い出した。 絵津は焦り、ぶんぶんと首を振った。
「いいよ、まだ明るいから」
「じゃ、急いでまっすぐ帰れよ」
わりと簡単に申し出を引っ込めて、真路は元気よく付け加えた。
「また来いよな。 たいていいつでもオッケーだから」
その提案にはまともに答えずに、絵津は膝を曲げてしゃがみ、スキップのカールした首筋を撫でた。
「じゃねー、スキップ」
「おねえちゃん、また来るって。 顔覚えとくんだぞ」
勝手に絵津の予定を決めて、真路は微笑んだ。
焦げ茶色の鼻が、絵津の手の甲を嗅いだ。 濡れた鼻先が触れた。 気持ちよく冷たかった。
だがそのとき、絵津の視線は小犬にはなかった。 ぼんやりと、真路の光るような笑顔に見入っていた。
家に帰りつくまで、絵津は無意識に幾度も溜め息をついた。 五度目ぐらいでようやく自覚し、丸まりかけていた背筋を伸ばした。
家が近付いてくる。 真っ暗な、鍵のかかった家が。 うちは午後だけ『家庭』だけど、残りの時間は違うな、と思ったとき、ある事実に気付いてぎょっとした。
誰もいないはずの窓が、灯りで黄色く染まっていた。
玄関も明るく、鍵が開いていた。 とまどいながら戸を開けてためしに呼んでみた。
「ただいま!」
すると、奥から母がすべるように出てきた。 店用のメイクはしていない。 いつもは少し疲れた素顔が、今夜は光っていた。 まるでさっき見た真路の顔のように。
玄関で靴を脱いでいる絵津に、パタパタと軽い足取りで近付いてくると、母は弾む声で告げた。
「あのね、お母さん結婚するよ。 もうじき松山のおじさんの奥さんになるんで、あっちの家で暮らそう」
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